第324話 龍輝の戦い

「……よっしゃ、ウヨウヨ出てきやがってるなぁ。アリの巣みたいだ」


 そう言って不敵に笑ったのは、龍輝であった。

 彼は武尊に言われた通り、倉庫の出入り口前で待ち伏せしていた。

 しばらくの間、退屈なほどに何も起こらなかった。

 澪が「飽きたからちょっと襲撃してくるのじゃ」と言って倉庫中心の天井部分から突っ込んだところもここから見ていたが、その時もまだ、暇だった。

 しかし、それから数分が経つと、状況が一変した。

 やはりあれだけ派手に侵入されれば、やばい、と邪術士とて思ったのだろうと龍輝は考えた。

 そもそも龍が天井打ち破って襲撃してきたら、どんな人間だって驚くに決まっているだろうと。

 しかも、澪は相当強力な龍だ。

 その実力のほどは正確にはわからないものの、全く底の知れない気術士である武尊の式鬼である。

 弱い妖魔を従えたり、紙で形代を作って使役する式神術とかとはレベルの違う、伝説の使役術だ。

 そんなものを必要とするような存在など、普通の気術士が相手になるわけがない。

 龍輝も、たまに澪に模擬戦で相手になってもらったりするが、本当に恐ろしいほどに強い。

 刀や槍で戦うのだが、澪の鱗には全く通ることがないのだ。

 初めて模擬戦をした時、刀が普通にその肌に命中してしまったのだが、全くの無傷で、澪からは、


「わしに普通の刃物は通らぬ。気にせずどんどん打ち込んでくるといい」


 と言われてしまったくらいだ。

 いつかは切り傷くらいつけてみたいと思っているものの、その気配はいまだに全くない。

 武尊との模擬戦の時は、澪も刀をしっかりと避けているので、武尊の刀は通るのだろうというのはわかる。

 龍輝はまだ、腕が足りないのだ。


「つっても、俺も弱くはないと思うんだけどなぁ……」


 そんなことを考えながら、次々と倉庫出入り口から出てくる邪術士たちを気絶させていく龍輝。

 たくさん出てきてはいるものの、強力な結界を築き、一定程度の距離から外には出られないようにしていた。

 結界術は北御門のお家芸であり、北御門分家筆頭である龍輝の家にもしっかりと受け継がれているからこそ可能としていることだった。

 

「化け物め……」


 邪術士が恨みがましい目でそんなことを言うが、


「化け物って言うけど、俺はそんなでもないぜ?」


 そう返してみる。

 けれど、邪術士は、


「うるさい! そこを空けろぉぉぉぉ!!」


 そう叫びながら刀を振り被って突っ込んでくる。


「悪いなぁ。そういうわけにはいかないんだ」


 縮地を使い距離をつめ、腹部に刀の柄をうちつけて意識を奪う。


「がっ……」


 そのまま倒れた邪術士を地面に寝かせたが、なぜか他の邪術士たちが引け腰になっていた。

 どうも、見るに今の邪術士は比較的実力者だったようだ。

 しかし、向かってきてもらわないと困る。

 まぁ説得して投降してもらうという方法もないではない。

 実力者を倒したのだから、それ以下の実力しかないお前らが、俺に敵うはずが無いだろう、さっさと投降しろと、そう呼びかけるのにもいいタイミングだ。

 だが、そうするとその後の管理が面倒くさい。

 変に隙を狙われても気疲れするしな。

 やはり、全員さっさと気絶させてしまおう……。

 そう思った龍輝は笑っていう。


「かかってこないのか? じゃあ、眠れ」


 そして気術を発動する。


「……震えて眠れ。《死霧しきり》」


 それは、吸えば一瞬で意識を失う霧を発生させるものだ。

 本来は死ぬのだが、少しばかり威力を調節して気絶だけで済むようにしてある。

 バタバタと倒れていく邪術士たち。

 ただ、それを見ながら龍輝は呟く。


「これに耐えられる程度の実力者がいねぇってことは、中に逃げ口でもあんのかもなぁ……武尊と咲耶が上手くやってくれりゃあいいが」

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