第323話 まとまる
「南雲の? また随分と不思議な情報を欲しておられますね……」
あの家に一体何があるのだろうか。
武尊様も南雲家と西園寺家について、あまり信用されていないようなことをたまにおっしゃる。
それに、武尊様の式鬼、丹月が以前、合成妖魔についての術具を仕入れた相手が南雲家だったという話をしていた。
そういうことを考えると南雲家は四大家にありながら、かなり怪しい動きをしている。
気になる話だ、と思った。
紅花博士はそんな私の考えを知ってか知らずか、続ける。
「君たち四大家の仲のほどは我々邪術士には詳しく分からんがね。近年、南雲家は妖魔に関してかなり危険な実験を好んで行なっている。その関係で、《闇天会》とは商売が被っているところがあってね。近々、ぶつかることもあり得るかもしれないと私は考えている。だからその動きを知っておきたくてね……」
「南雲家が……そのようなことを」
そう言いながらも、危険な実験とは合成妖魔関係のアレなのだろうな、と思った。
しかし、《闇天会》とは協力関係にあるというわけではないのだろうか?
ぶつかる可能性がある、商売が被っている、となると似たようなことをやっていても、ライバル関係に近いのかもしれない。
「知らなかったかね? あの家はかなり後ろ暗いことが昔からたくさんある……我々のような一部の邪術士にとっては、比較的知られた話だ。もちろん、気術士に流すような話ではないのだがね」
「確かに聞いたことがありませんでしたが……」
「まぁ、今までは特に知られないように気を遣っていただろうからね。ただ、ここのところそういうことに気を使わなくなってきている。だから私は危険だと思っているのだ」
「私からすれば、《闇天会》と南雲家が潰しあってくれればこれほど都合のいい話はないですが」
「北御門の君からすればそうだろうとも。しかし、四大家は、四家揃っての存在感だという事実もある。一つ欠ければその空白はかなり大きいよ。その混乱を確実に鎮められる自信があるというのであれば、放置しておけばいいとは思うが……どうかな?」
これはなかなかに難しい問題だ。
四大家、それぞれが担っている役目は多岐に渡り、一つ欠けただけでも日本中に大きな影響を与えてしまうほどだ。
私一人で決め切れることではない……。
だから私は素直に言った。
「少なくとも、今のこの場で決めるにしては大きすぎる決断のようです」
「というと?」
「……とりあえずは、保留ということでいかがでしょうか。持ち帰って相談したいです」
「うーむ、君一人の胸のうちに収めて欲しいところなのだが」
「相談すると言っても、祖母と、祖母が認める人間だけに、です。邪術士との取引など、表に出せませんから」
「……それなら許容範囲かな? 仕方ない。ではそのように……あぁ、私に連絡をつけるときはこの番号にかけてくれたまえ。メッセでもいいが」
そう言って紅花博士は名刺をカードのように飛ばしてきたので私はそれをキャッチする。
確かにそこには電話番号とメッセのID、それにメールアドレスまで記載してあった。
「……邪術士が連絡をつける方法にしては、不用心に過ぎませんか?」
「ははは。意外とこういうところが盲点なのだよ。気術士は機械に弱いしね。いざとなったら捨てやすいのもいい」
「それは……なるほど」
そうかもしれない。
気術などを使った場合の痕跡は、腕があれば見抜かれてしまうが、普通に電波を使っての連絡を気術的手法で探すのは難しいだろう。
単純な解決策と言えた。
「では、そろそろ私も脱出しなければまずそうだ」
周囲を見て、揺れが激しくなってきた建物を見る紅花博士。
「確かに……」
おそらく誰かが暴れているのだろう。
それが徐々に近づいてきている。
「君はどうするかね? 私は専用の脱出口があるからそこから出るが」
「そういうことでしたら、私はここに残りましょう。仲間に貴方について伝えなければなりませんから」
「そうかね。では、さらばだ。これから色々とよろしく頼むよ」
そう言ってから紅花博士は地面のタイルをひっぺがし、そこに現れた階段を降りて行った。
脱出口、というわけだ。
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