第319話 澪の力技

『……そういうことで頼む』


『任された』


 そして、ぷつりと、仙術による通信が切れたのをわし、龍の澪は感じた。

 それから周囲を見渡して、


「頼む、任された。簡単に言って言われたものじゃが……これはそこそこ難事かもしれんな?」


 そう呟く。

 そこには大量の邪術士たちがおり、協力して巨大な結界を築いていた。

 また、結界の内部には数人の腕利きと思しき邪術士が残っていて、武具を構えてこちらを睨んでいる。

 龍を倒す、そういう意思を持っていることが見ればすぐに分かった。

 ただ……。


「ふむ? かかって来ないのか?」


 にじり、と人化した体で尋ねながら彼らに近づくと、張り詰めたような緊張感が漂った。

 冷や汗を流している者もおり、どうやら簡単な相手だ、とは考えていなさそうなのが分かる。

 それでも立ち向かおうとする勇気もあるようだが、積極的な動きは見せない。

 受けに徹するつもりか?

 まぁそれならそれで……。


「来ないなら、こちらか行かせてもらうぞ!」


 そう宣言してから、わしは体を霊力で満たす。

 また手元には霊力で形成された霊刀を握った。

 元々、刀術はそれほど得意でもなかったが、日々の中で武尊相手に模擬戦などをするうちに、得意になってしまった。

 あやつはおかしい。

 刀術に関しては、他の追随を許さないレベルで優れている。

 あの年齢で手に入れられるような力ではない。

 まぁそれも、古い鬼に長年学んだようだから、当然と言えば当然なのかもしれないが……どれだけの努力と苦痛の末に身についたものかを考えると恐ろしくなってくる。

 そんな相手に学んでいるのだから、わしの腕が上がらないはずもなかった。

 構える邪術士の槍の穂先を切り落とし、胸部を蹴り込んで吹き飛ばす。

 そこを狙ってきた剣を持った邪術士の振りおろしを軽く流して、そのまま刀の柄で頭部を殴って気絶させる。

 弓で脳天を貫こうとする邪術士には、仙術により風を操り、そのまま返す……と言っても、脳天を穿ってしまっては死んでしまうから、あくまでも致命傷にならない場所……利き腕を狙うだけにしておいた。

 怯んだところに近づいて、峰打ちにして意識を奪う。

 そうやって、結界内部の邪術士を全て倒したところで、わしは結界外の邪術士に叫ぶ。


「お主らはわしに直接かかって来んのかぁ!?」


 龍の肺活量で叫んだため、空気がビリビリと振動し、彼らを恐慌状態へと陥らせる。

 その結果として、無茶をして飛び込んでくる者が出たが、実力は最初から内部にいた者より、やはり少し落ちるようなのしかおらず、すぐに倒す事ができた。

 残った結界外の邪術士に、再度挑発をしようかと一瞬迷うも、この状況で結界を張り続ける胆力は相当なものだろう。

 今更挑発しても無駄と思われた。

 だから素直に、真正面から結界を破壊することにする。

 わしは結界に近づき、口をガパリ、と開いた。

 そしてそこから、煌々と輝く真火を吐き出した。

 結界を炙るように昇っていく火は、結界を焦がし、ひびを入れ……そして最後には粉々に砕いてしまったのだった。

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