第317話 襲撃

 通路を歩いて色々と見物したり質問したりしながら情報を集めていると、


 ──ドォン!!


 という音が、大きな揺れと共に襲ってきた。


「なんだ!?」「襲撃か!?」「警報を鳴らせ!!」


 と、周囲が途端に慌ただしくなる。

 俺はといえば、大して慌ててはいない。

 というか……。


「この霊気は澪か……流石にのんびりし過ぎたか」


 倉庫の内部に雷のような速度で入り込んできた気配、霊気が澪のものであることはすぐに分かった。

 学校で暴れられなかったから、ここで暴れると言っていたしな。

 俺と咲耶も当初はすぐに色々破壊活動するつもりだったが、うまいこと溶け込んで容易に情報収集出来るような状況であったために、ゆっくりし過ぎた。

 この辺が、潮時かもしれない。

 といっても、最後まで正体をバラすつもりはないけどな。

 事実、


「……おい、ブソン!! お前、生きてたか」


 周囲が煙や炎に巻かれつつある中、硴水さんが走ってこっちに近づいてくるのが見えた。

 どうやら心配してくれたらしい。

 本当にいいおっさんだな……。


「ええ、なんとか……一体何が起こったんですか? すごい揺れと轟音を感じましたけど……」


「いや、それがよ、倉庫の中心で龍が暴れてるんだ。相当な霊力を持ってるから、かなり高位のものだと思う。実行部隊の奴らがなんとか追い払うために向かったが……ありゃあ無理かもしれねぇな。龍と人間じゃ、存在の格が違いすぎる」


「そこまでですか……というか、硴水さんは実際に見たんですか?」


「あぁ。上から天井ぶっ壊して来たときにちょうど出くわしてな。その時は龍の姿してたが、すぐに人化してた。人化出来る龍なんぞ、普通の邪術士じゃまず対抗できねぇ……」


「じゃあどうするんです? 逃げますか?」


「それもなぁ……ここの出入り口って大きいのは結局、一つしかねぇだろ? でもその出入り口前には馬鹿強い気術士がいるらしくてこっちもな」


 これは龍輝の事だろうな。

 咲耶や澪に比べると落ちるような気がするあいつだが、別に実際にはそんなことはない。

 普段は俺たちの中で最も常識的なために、バランサーとして振る舞っているだけだ。

 本気になるとあいつくらい怖い気術士はいない。

 遠距離も近距離もなんでもござれの万能な気術士だからな。

 通常の気術士が目指す、理想的な存在に近いのだ。

 何一つとして穴がない。

 一対一でも強いし、多対一でも強い。

 俺みたいに長い年月を積み重ねたわけでも、咲耶のように才能にひたすら恵まれたわけでもなく、純粋に鍛え上げた力だからだ。

 そういう奴が自らのスタイルを完成してしまったときほど、恐ろしいものはない。

 その上、あいつはまだ発展途上だ。

 ここからまだまだ強くなる……。

 北御門の将来は明るいな。

 と、そこまで考えた俺は言う。


「じゃあ一体どうしたら……」


 何もこれ以上やりようがない、という答えが出てくるようなら、硴水さんを気絶させ、他の邪術士も龍輝や澪と挟撃して捕縛して終了でいい。

 だが、硴水さんは、


「……脱出口はいくつかある。お前はそこに向かえ」


 そう言いだした。

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