第316話 遭遇

 そんな感じで色々と邪術士組織周りのことを硴水さんに聞いていった。

 いずれも丁寧かつ分かりやすく教えてくれたので非常にありがたかったと言える。

 これほどまでに教えていいのか?セキュリティとか大丈夫か?

 と一瞬思わないではなかったが、彼からしてみると俺は内部の人間だしな。

 そもそもセキュリティの話をするのなら、この倉庫内に入ってくることが出来る人間など邪術士以外どこにいるのだ、という話になるのだろう。

 ここにいる時点で、すでに話しても問題ない相手、という判断なのだろうな。

 大体、俺の格好もツナギ姿だし、完全に身内に見えているだろうし。

 真気の量を見ても、仙気の使える俺のそれは大したものには見えない。

 だから本当にただの新入りに見えるわけだ。


「さて、今日のところはこんなもんか。また明日、他の作業についても教える。それと明日は実際に作業もしてもらうから、その心づもりで来てくれ」


「またここに来ればいいんですか?」


「そうだな。おっと、今更だがお前の名前聞いてなかったな。お前は……」


 ここでなんと答えるべきかは迷ったが、


「ブソンと言います」


「ブソン? 変わった名前だな。まぁ邪術士にとっては身分とか名前はそんなに意味ねぇか。どうせ組織には個人情報伝えてあるからって偽名というかニックネームというかコードネームしか名乗らない奴も多いからな。じゃあブソン、また明日」


「ええ、明日」


 そして俺は手を振り、その場を後にする。

 本当に明日があれば楽しく働けそうないい職場だが、その職場は今日俺たちが崩壊させるので大変申し訳ない気分になってくる。

 あの硴水も四大家に引き込めないか……いや、難しいか。

 ああいう男気あるタイプは金とか打算で動きはしないからな。

 ただ殺すのも惜しいし……まぁあとで考えるか。


 そんなことを考えながら、また他の場所を勝手に見学できないかとうろついていると、通路で、


「……ん? ちょっとそこのツナギ組のやつ。止まれ」


 と、男に言われる。

 見れば、顔まで覆ったコートにサングラス姿の非常に怪しい格好の奴が俺に目を止めていた。

 俺は、


「ええと、俺ですか?」


「そうだ、お前だ」


「一体どうして……」


 首を傾げていると、男の方も少し首を傾げていて、


「いや、見かけない顔だからな……お前、どこの所属だ?」


「硴水さんのところですけど……今日からなんです。なんなら確認していただいても大丈夫ですよ。ブソンと言います」


「硴水の? そうか、その名前を知ってるってことはスパイってわけじゃなさそうだな」


「スパイって。こんなところにスパイに入るやついるんですか? 超危険違いじゃないですか」


「世の中にはそういう感覚の狂ったやつもいるんだよ……悪い、時間を無駄にさせたな」


「いえ、いいんですけど……」


「おっと、俺も名乗っておくべきだったか。新人なら知らないかもしれないが、俺は《黒の月》実行部隊のジギだ」


「ジギさんですか」


「あぁ。と言っても、俺は出向組なんだけどな。スパイっぽいやつを見つけたら言ってくれ。速攻で捕まえてやるから」


「頼もしいですね……承知しました」


「じゃあな」


「はい」


 そしてジギは去っていく。

 どうやら、俺の顔には気づかなかったみたいだな。

 まぁ、先日、俺は花蜜という奴が咲耶と戦ってるのを遠くからちらっと見ただけだし、ジギに関しても校庭に降りて遠く離れてから叫んだだけだったしな。

 その時もやつは振り返りもしなかった。

 声だけじゃ、流石にわからなかった、というわけだろう。

 倒してしまっても良かったが……流石にここは倉庫のど真ん中過ぎるしな。

 今は保留だ。

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