第315話 感覚
『グギャアアァァア!!」
恐ろしい悲鳴が、そこには響いていた。
悲鳴の主は俺の目の前……檻のようなもので区切られた場所にいる、猿鬼である。
彼の近くには硴水をはじめとする、複数の邪術士が群がっていて、猿鬼の体を気術でもって抑えていた。
硴水はそんな猿鬼の背中から、巨大な注射器のようなものを刺し、そこに真気を注ぎ込んでいる。
見るに、あの注射器のような術具は、他者に真気を注ぐための補助をするためのもののようだな。
妖魔とはいえ、普通に真気を注ぎ込んではそのまま器が壊れるか、ただひたすらに真気が漏れるかの二択になるはずだが、そうはなっていないのはあの術具がその辺りをうまく調整しているからなのが分かる。
それにしても……あそこまで悲鳴を上げるということは、痛いのだろうな。
俺が他人に……咲耶や龍輝に真気を注ぎ込んだ時は大した苦痛はない。
全くないとは言わないた、多少、食べすぎた時のようなパンパン感を覚えるだけだ。
けれどもあの猿鬼はその比ではない苦しみ、痛みを感じているようであった。
妖魔とはいえ、少し心が痛むような気がしないでもないが……仕方ない、か。
そしてしばらくその作業が続いた後、ついに猿鬼の真気の器が急に、ぐん、と広がったのを感じた。
それと同時に、猿鬼の大きさも一回り大きくなる。
妖魔としての格、強さが上がったということだろうが……人工的だからか、あまり良い変化には見えないな。
猿鬼でも自然にボス格になったものに見た目は似ているが、その目に宿る理性や、妖気の落ち着きなどが全く異なる。
なんというか、バーサーカーっぽい雰囲気なんだよな。
精神的にも普通ではないということだろう。
あれで大丈夫なのだろうか、と思ってしまうが、あくまでも素材取りに使うだけと割り切っているのならあれでいいのかもしれないな。
他の用途に使うにしても、頭の中にあるという術具によって強制すればいいわけで……。
合理的といえば合理的なのだが、流石にあまり好きにはなれない手法ではあった。
もう少し、やりようがあるのではないかと……甘いのかな、俺のこの考えは。
わからない。
「おう、見ててどうだった?」
硴水がそう言ってこちらに戻ってくる。
俺は彼に言った。
「色々と凄かったです。それと……これは余計かもしれませんが、猿鬼とはいえ少し可哀想に思えてしまって……申し訳ありません」
文句を言われるかも、とは思ったが、彼ら邪術士がどう思っているのか、その考えを知りたいということもあり言ってしまった。
これに硴水は頭を掻きながら、
「まぁ……言わんとすることは分かるぜ。だいぶ苦痛を与えているのは俺たちも理解してるからな。だが、今のところ、他に方法がないのも事実だ。白衣組の方に、なるべく苦痛を和らげるようなやり方はないか、模索してほしいとリクエストは送ってて、研究もされているんだが中々な」
そんな答えが返ってきた。
これは少し意外である。
もう少し割り切っているモノかと思った。
「そうなのですか……所詮妖魔だからと、その辺りについては気にされないものかと」
「気にしない奴も少なくないが、俺たちだって人間だぞ。生き物に対するそれなりの情はある……というか、あるからこそ普通の気術士に馴染めなかったやつも多いしな。難しいところよ」
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