第314話 実行部隊

「……ッ」


 花蜜かみつが軋む骨の痛みに思わずそう口にすると、ジギが、


「おい、大丈夫か? 《半妖魔化剤》の副作用ではあるまいな」


 と心配気に呟く。

 花蜜とジギ、この二人を武尊たちが見れば、《幸福のお守り》を生徒会室まで奪いに来た奴らだとすぐに同定することだろう。

 事実、十分に真気が充填された《幸福のお守り》は組織にすでに納品され、それを元に解析が行われている。

 解析……それは、個人の真気の特性についてだ。

 《幸福のお守り》は非常に良くできた真気回収機であるが、あれくらいの大きさでは収集できる量にも当然限界がある。

 あれだけで、たとえば合成妖魔たちの餌となるだけの量の真気を集めるなど不可能に近い。

 奴らは大喰らいなのだ。

 それを支えるのはツナギ組と呼ばれる邪術士たちであり、必要があれば白衣組や実行部隊である花蜜たちも真気を注ぐ。

 《幸福のお守り》はあくまでも、一般人の真気を集めるためのものなのだ。

 そしてそれは、真気というものが魂から起る力であることに起因する。

 地脈からも流れてはいるが、重要なのは個人の真気だ。

 そこに個性が出るから。

 そしてその個性が最も影響するのが、それぞれの気術にである。

 それがために、多くの気術士たちの家ではその家独自の気術がある。

 その家系に引き継がれていくのも、血が繋がった者同士だと真気の個性が似るからだ。

 そういった真気の特性を研究するために、《幸福のお守り》は配られた。

 あんな一つだけでも何万、十数万円もするような品を大量に作り、配るなど正気の沙汰ではないが、それだけの資金は《闇天会》から与えられていた。

 

「これは副作用じゃねぇ……あの女気術士の奴にやられたせいだ」


 花蜜がそう答えると、ジギが少し目を見開く。


「お前が……《半妖魔化剤》まで使ってそれか」


 ジギと花蜜は特別仲がいいというわけでもなかったが、よくペアを組まされて動いている。

 それが故にお互いに何が得意で何が不得意かよくわかっていた。

 真っ向勝負は花蜜の独擅場であり、逆に細かな作戦を練っての行動にはジギの方が定評がある。

 だからジギからすれば、花蜜が戦って、しかも《半妖魔化剤》まで使って傷を負ったのが信じられなかった。

 副作用だというのならまだ理解できるが……。


「けっ。私を買い被るなよ。そもそも気術士には化け物がウヨウヨいることくらい知ってるだろ」


「どこかの家の跡取り系はヤバいのが多いが……あの学校にいたのもそれか。《幸福のお守り》は確かに我々にとっては重要だが、気術士たちがそこまで気にするほどの品でもないんだがな……?」


 首を傾げるジギに花蜜は言う。


「ご自慢の学校に侵入者が入ったことが気に食わねぇんじゃねぇか? あの日、捕まって戻ってこなかった奴らはまぁまぁいる。四大家から人が出されてるって話もあったしな」


「本当に出してきたのか。ではお前がやられたのもそういうのの一人というわけだ……全く、恐ろしいな。気術士など、伝統にがんじがらめにされて進歩を拒否してるクズ共だと思っていたが、存外そうでもないらしい……またまみえてみたいところだ」


「できれば私は二度と会いたくないんだが……」


「まぁ、そう言うな。おっと、そういえば先ほど第一研究室から呼ばれてたぞ。行ってこい」


「あぁ? 紅花こうか博士か? あいつまぁまぁサイコパスだから嫌なんだが」


「いいから行け。俺は俺で硴水かきみずから呼ばれてるんでな」


「いいなぁ。私はあっちのおっちゃんたちの方が好きだ」


「仕事だ。黙ってやれ」


「はいはい」

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