第312話 組織の繋がり

「凄いとは思いますが……これ、何に使うんです? 言うことを聞かせて気術士とでも戦わせるんですか?」


 俺が硴水かきみずにそう尋ねると、彼は首を横に振って答える。


「それも悪かぁねぇが、別に俺たちの目的は気術士打倒とかじゃないからな。あいつらに関してはどうでもいい。俺たちの邪魔をしてこない限りは」


 意外な台詞だった。

 ……いや、考えてみれば普通か?

 邪術士は、あくまでも自らの目的の為に生きる真気を使う者達の総称だ。

 まっとうな気術士からドロップアウトする理由は様々ではあるけれども、復讐、というのは少ないはず。

 だから基本的に気術士は眼中には入っていないのかも知れない。

 ただ、邪魔をしてくるのであればいくらでも打ち払う、とそんな感覚か。

 そんなことを考えながら、俺は言う。


「じゃあ何に使うんです?」


「素材として、というのが多いな。《半妖魔化剤》を知ってるか?」


「あぁ、呑むと妖魔っぽくなる液体?ですかね?」


「お、どこかで見たか。あれは試験段階らしいからそれほど出回ってないはずなんだが……」


 めっちゃごくごく飲んでたけどな、あの花蜜かみつとか言う女。


「花蜜?って呼ばれてる人が呑んでたんですけど……」


「あぁ、あの人か。あの人ならそうだな」


「遠くから見ただけなんですが、あの人ってどういう人なんですか?」


「知らねぇのか? うちの実行部隊の一人だ」


「実行部隊ですか。ツナギ組と白衣組とはまた別なんですかね?」


「あぁ、そうなるな。総帥直属でな。俺たちには知らされないような任務に従事してる。っていうかよくそんな人が《半妖魔化剤》使うところに出くわしたな? どこでだよ」


 おっとまずい、話しすぎたか?

 まぁ適当に誤魔化すしかないんだが。


「たまたまでしょうね……話を戻しますけど、その《半妖魔化剤》の素材になるって?」


「あぁ、そうだったな……。真気を大量に注ぎ込んだ妖魔の体は全てが良い素材になる。高位の妖魔が一番いい素材になることは知ってるだろ? だがそういうのはまず倒すことすら困難だからな。だが、合成妖魔なら、ほとんど養殖みたいな感じで簡単に確保できる。これは発明だよ」


「なるほど……」


 妖魔にとってはたまったものではない話だし、俺があの猿鬼だったら、人権を主張して相応の扱いを求めたくなるところだが、気術士邪術士にとって妖魔とは人権なんて存在しないものだからな。

 妖魔と協力している邪術士組織もあるようだが、そんなのは見せかけというか、都合良く扱ってるだけに過ぎないだろう。

 必要があれば簡単に処分する。

 目の前の猿鬼のように。

 

「で、こいつに真気を注ぐのが俺たちの仕事だな。素材を使うのは白衣組の奴らの仕事……だが、全部が全部ってわけでもない。武具系の術具に鍛えたりするのはむしろ俺たちの仕事だしな」


「そんなものまで……作ったらどうするんですか? うちで全部使うんですかね」


「いや、他の邪術士組織に売ったり融通したりだな。《闇天会》傘下になって、その辺りの連絡が良くなってる。今までは四大家を初めとする気術士組織にその辺で遅れをとってたが、俺たちの巻き返しもこれからありうるぜ。技術開発もそのお陰でかなり進んでいるわけだしな」

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