第309話 変装

 ここまで進んできて、このアジトを歩き回る邪術士の格好には二種類あった。

 一つは私服だ。

 これは普通だな。

 そしてもう一つは、制服だ。

 といっても学生服とかじゃないぞ。

 そうではなく、白衣と着ている者と、作業着を身につけている者がいた。

 作業着の方は統一されたデザインで、かつ様々な防護術式が組まれた中々性能の良さそうなものだった。

 白衣の方はそういう意味では普通だったが、白衣を着ている者は比較的実力者が多かったので、揃いの装備としてそういったものは必要ないという判断なのかもしれない。

 俺と咲耶はそれぞれ、作業着と白衣を着ている者を一人ずつ倒して、その身包みを剥がした。

 加えて、邪術士というのは顔を隠したいと考えるやつが多く、自分たちのアジトですら仮面を被っている者がいるので、そういうタイプから奪った。

 俺たちも顔は見せたくないからな。

 情報聞くにも、流石に見たことのない若い奴が聞いてきたら、向こうも疑うだろう。

 しかし、仮面さえ被っていれば、アジトのセキュリティを信じている限りは、ある程度のところまでは素直に話してくれると思われる。

 難しい時は思考誘導系の気術を使うしかないが、その場合でも多少は自ら話す意図を持っていてくれた方が聞きやすいのだ。

 使えば精神に異常を来す可能性が高いこの気術だが、まぁ相手は邪術士だし、一般人相手ではないのでさほど気にしなくてもいいかな、とか酷いことを考えている。

 精神に異常、といっても少し忘れっぽくなるとか、一定期間の記憶がすっぽり抜け落ちるとか、その程度で済ますつもりなので温情がある方だと思って欲しい。


「……白衣似合うな」


 フロアの一角、目立たない場所で奪った服に着替えた咲耶を見ながら、俺はそう呟く


「そうですか? 化学の実験などでしか着ないですが……しかし、非常に質のいいものですね」


 学校で着るものはやっぱり若干のチープ感はあるからな。

 ちゃんとした研究者用のものはそれなりなのだろう。

 そう思った俺に、咲耶は言う。


「武尊様も普段と違った感じで良いですね」


 と。

 俺の方は作業着だな。

 厳密にいうなら、ツナギか?

 若干汗臭い気もするが、贅沢は言えないし仕方がない。


「怪しいところはないか?」


「大丈夫じゃないでしょうか? どうせ仮面をつけるのですし」


 そして俺も咲耶も仮面をつける。

 俺の方は顔全体を覆う白い仮面を。

 咲耶の方は顔の上半分を覆う、装飾的なものだな。

 男女で身につける仮面に好みの違いが出るらしい。

 まぁ、白衣を奪った女性は中々美人だったので、その辺をひけらかしたいタイプだったのかもわからない。

 女性気術士が邪術士に堕ちる最大の理由は、美貌とか若さとかその辺にあるからな……。

 ちなみに男の方は、単純に力を手に入れたがる。あとは不老不死とかか。

 わかりやすい好みの違いだ……いや、不老不死の方は両方ともか。永遠を望んでいるのは一緒だからな。

 

「さて、じゃあ聞き込みに行くか。二手に分かれた方が良さそうだな」


「そうですね……見る限り、白衣勢と作業着勢が一緒に行動している感じは少ないようですし」


「仕事が違うんだろう。どんなことをやっているのかはわからないが……まぁこれから探ればいい。じゃあ、行くぞ」


「はい」

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