第308話 潜入

 倉庫内部は外側から見たのとは違って、むしろ通常のビルのような内部構造をしていた。

 外側は見せかけかな?

 それとも既存のものを改装してこうなっているのか……。


 まぁ気術を使えば、大規模な改装もそれほど難しいことではない。

 それに、建築基準法とかそんなのは守る必要もないからな、邪術士にとっては。


 廊下を進みながら、角で止まり、向こう側から人がやってきそうな時はしばらく待つ。

 そして相手が曲がって来たら即座に襲い掛かり、声を出される前に気絶させていく。

 廊下に放置しておくと俺たちの侵入が露見してしまうから、近くの部屋に放り込んでおくのも忘れない。

 真気の有無を探れば、無人かどうかは分かるため、そのようなやり方で問題ない。

 たまに真気の流出がないように結界が張られている部屋などもあったりするが、その場合は俺が普通に気配を探った。

 仙術により人の生命エネルギーそのものを感知できるようになっているため、真気のみの対策は俺に対しては意味がないのだ。

 ただ仙気コントロールは未だ練度が低いために、多用していると勘付かれる可能性があるので、最低限に抑えるが。


 そうやって進んでいくうち、俺たちは開けた空間に出る。

 そこには何かの生産設備のようなものが、大量に設置してあった。

 大きさも巨大なため、見通しが悪いが、幾人もの邪術士が働いていることはそれこそ真気の存在で分かる。

 こういった機械的設備は気術士の設備としては珍しいものだが、やはり邪術士組織では主流なのだろう。

 技術体系が大きく分かれていることがよく理解できる。

 とはいえ、源流は同じだし、秋月の話を聞くに基本的な理念を理解すれば既存の気術士にも十分に理解・応用できるものなのだが。

 事実、北御門家と東雲家でも導入と研究は始まっている。

 意外に東雲家の方が乗り気で、その理由は武具の生産にあった。

 あの家は戦闘能力重視だが、派手好きでもあり、新しい技術を使った武具なんかも意外に好む。

 この辺りは重蔵の影響が大きいだろうな。 

 強くなるために手段を選ばないで生きてきた年月が、そういったものに対する忌避感をゼロにしているのだろう。

 今となっては、いい意味で東雲家の家風を変えているというわけだ。

 北御門家は元々、技術の研究に強い家であるので、当然に受け入れている。

 それでも機械系に弱かったのは、気術士というのがそういう傾向があるからだな。

 しかし一度やると決めればそこに躊躇はなく、邪術士の機械的技術に追いつくべく、研究は急ピッチで進んでいるというわけだ。


「……武尊様。ここはいかがいたしますか」


 咲耶が尋ねてくる。

 どうするか、とは破壊し尽くすか、それとも……ということだ。

 俺は少し考えてから答える。


「壊すのは容易いが……何か得られるものもあるかもしれない。それに今やると目立つからな。とりあえずはやめておこう」


「では……」


「まず情報が集めたい。俺たちと背格好の高い人間を捕まえて、服でも奪おう。その上で、聞ける話を聞いていきたい……邪術士らしく、仮面を被ってる者も多いしな」

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