第307話 アジトへの侵入
「……なるほど、これなら見つからないのも道理だな」
澪から降りて、その場所に急いだ俺たち。
気取られないために少し離れた場所に降りたが、すぐに見つかった。
その建物は倉庫の名にふさわしい巨大さだったが、存在感だけが違う。
パッと見てもあまり印象に残らないのだ。
これは別に、この建物に特徴がないとか言うわけではなく、隠蔽系の術がかけられているからに他ならない。
やはりこのタイプの術は、邪術士の独擅場だな、と改めて思う。
「すぐに入りますか?」
咲耶の言葉に、俺は言う…
「まずは侵入路を探すか……流石に真正面からは難しそうだからな」
「横開きの巨大な扉ですからね……開けたらすぐに気取られてしまいそうですし、そうなるとそれなりの人数に逃げられてしまうでしょう」
「その通りだ。出来る限り逃走はさせたくない。まぁこれだけでかいと全員一人残らず、と言うのも難しそうだが……重要な情報は抑えたいところだな」
「では手分けしますか? 建物を一周するくらいならすぐに終わるでしょう」
「あぁ、そうしようか。逆から一人ずつまわればいい。一人余るから……そうだな、龍輝は正面入り口を見張っててくれ。誰か出てきたら困るからな」
「分かった」
そしてぐるっと回ると、いくつか侵入路になりそうなところが見つかる。
咲耶と合流し、相談する。
「窓と裏口がありましたね。窓は空いているところがいくつかありましたから、そこが容易そうですが……」
「裏口は開けた時に人と
「……そうですね。ですから、まず武尊様に先に入ってもらう形になってしまいますが……大丈夫そうなら合図を出して貰えば、壁を伝って入ります」
「いや、その時は俺がロープでも垂らすよ。その方が楽だろう」
「見られませんかね?」
「それも含めて、周囲の確認をしっかりしようか」
「はい」
そして、俺たちは倉庫の側面にある窓の中で、人の気配が感じられない場所を選び、そこからの進入を開始する。
まずは俺が浮遊術を使い、中をそっと確認する。
ここは……男子トイレか。
まぁそりゃ必要だよな。
しかし、咲耶にここに入ってもらうのはいいのか……?
いや、緊急事態に考えることじゃないか。
すぐに頭を切り替えて、中に誰もいないことを確認して俺は窓から侵入した。
倉庫の内と外の境界面には幸いなことに結界は存在しなかった。
まぁこれほどの規模の建物全てに結界を張ることは現実的ではないな。
うちの学校くらいになると話は別だが、いずれ捨てる可能性もあるアジトにそこまでする邪術士組織はないだろう。
邪術士はその性質上、アジトを頻繁に変えたり捨てたり出来るようにしがちだ。
この拠点をしっかりと構えられるという点は、気術士に分があるところだな。
堂々と生きられないのが、邪術士の宿命だ。
「……咲耶、行けるぞ」
下に居る咲耶にそう伝えて、ロープを下ろすと、するするとものすごい速度で音もなく咲耶が登ってくる。
ロープは即座に回収し、《虚空庫》に入れた。
咲耶はそこが男子トイレであることを察すると、少し目を見開いて頬を赤くしたが、
「どうした?」
と俺が尋ねると、
「い、いえ……緊急事態ですからね。仕方ないですもんね」
とすぐに言って、頭を切り替えてキリッとした表情に変わる。
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