第306話 アジトの場所

「……お、止まったな」


 発信器の位置情報を見ると、かなり高速度で進んでいたそれがピタリと止まる。

 横からそれを見ていた咲耶が、


「ここは……埠頭の倉庫ですか。ありがちですね」


 と呟いた。

 真富田には海があり、港がある。

 前世において、そこから鬼神島に渡ったから、余計に思い出深い場所だ。

 とはいえ、普段は普通の港に過ぎないけどな。

 かなり規模は大きいが、それはこの土地には四大家が根を張っており、海外との貿易も盛んだからだ。

 取引されるものは気術士の名前は出さない普通の会社の物品が大半だが、その中には気術士しか使わないもの、ほしがらないもの、知らないものも多い。

 だからこそ、邪術士組織がアジトを奥には少しばかり意外な場所だが、木を隠すなら森ということかな。

 特に怪しいそぶりを見せなければ、気術士と邪術士は見かけ上、大して変わらない。

 大量に人員のいる四大家では、一人一人の顔など覚えているわけも無し、そうそう露見もしないという目算なのだろう。

 事実、今までバレては来なかった。

 ざる過ぎるか?

 いや、それほどに邪術士を見つけるというのが大変なのだ。

 彼らは常に悪事を働いているとも限らないからな……人に紛れるのもうまい。


「早速行くか? あまり放置しておくとドロンされる可能性もあるわけだろう?」


 龍輝がそう尋ねる。

 俺は答えた。


「そうだな……とりあえず、美智様にだけ連絡して行くか。そうすれば、後ろから人を派遣してくれるだろう」


 そしてスマホで電話をかける。


「……というわけなので、すぐに埠頭に急行したいんですが」


『そんな小細工してたなんて、教えてくれても良かったのに』


 今回の発信器は秋月とだけ相談して、美智には特に伝えていなかった。

 もしかしたら四大家の内部にも邪術士のスパイがいる可能性を最近疑ってきているからだ。

 まぁそんな風に何もかも疑い始めるともう何も出来なくなりそうだが、今回のこれについては特に伝えずとも大した不利益はないしな。


「すみません。お忙しいかと思いまして」


『武尊ちゃんの報告なら、最優先で聞くのに……まぁ、話自体は分かったわ。すぐに向かって構わないわよ。後始末とかもあるでしょうし、人をいくらか送っておくわね。余ってたら、加勢するようにも言っておくわ』


「ありがとうございます、では」


 そして電話を切ると、


「お祖母さまはなんと?」


 横で聞いてたのに咲耶が尋ねてくる。

 まぁ向こう側の声は聞こえにくいか。


「すぐに向かって構わないってさ。人の派遣も問題ないと」


「そうですか。では行きましょう」


「あぁ……澪!」


 俺が呼ぶと、空に待機してた澪がやってくる。


「む、なんじゃ?」


 話を聞いていなかったらしく尋ねてきたので、


「これから真富田港に行きたいんだ。乗せてくれ」


「構わんが……何があった?」


「詳しくは道中、説明するよ」


 そして俺たちは澪の背中に乗る。

 港は近く、十分もあれば着くだろう。

 その間に、澪に解説すると、


「なるほどのう……ふむ、ではそのアジト壊滅については、わしも参加して良いか?」


 と言ってくる。


「構わないが……やり過ぎるなよ?」


「分かっておる。じゃが学校ほどは気を遣わんでいいじゃろ?」


「まぁな。ある程度ぶっ壊してもまぁそれはそれで」


「よし、なんだか最近暴れたりなくてのう。ちょうどいいと思ったんじゃ」


 そこからは澪の速度はさらにあがり、五分ほどで現場まで辿り着いてしまったのだった。

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