第304話 咲耶の戦い
生徒会室前にたどり着くと、そこで咲耶が二人の邪術士と思しき人物たちと対峙していた。
一人は男性、もう一人は女性のようだった。
咲耶は鉄扇を構えていることから、戦っていたのだろう。
ただし、あまり疲れている様子はない。
対して、相手方のうちの一人、女性の方は少し息が上がっているようだった。
「なんなんだよ、この化け物は……」
呆れたような声色で咲耶にそう呟いている。
咲耶は、
「こんな少女を捕まえて化け物とはご挨拶ですね……お仕置きが必要かもしれません」
そんなことを言う。
残った一人の男が、
「おい、
と言ったので、女性が答える。
女性の名前は花蜜、というのだろう。
苗字か名前かは知らないが。
「… …んだよ?」
「扉が開いたから、俺は例のものを回収してくる。それまで一人で持ち堪えろ……できるか?」
「けっ。断ることなんて許さねぇくせに」
「悪いな」
「いいぜ、やってやらぁ。お前は早くしろ、ジギ」
「あぁ」
そして男は生徒会室の中へと入っていった。
本当にあそこを開けられたらしい。
開錠系の気術が得意なのかもしれないな。
そんな会話を聞いた咲耶は、
「あら、私も舐められたものですね。二人がかりでギリギリだったのに、お一人で耐えられると思っておいでですか?」
そんな事を言う。
「余裕ぶりやがって……私にだった切り札の一つや二つくらい、あるんだ、よッ!!
花蜜はそう言って、懐から取り出した瓶の蓋を外し、飲み下す。
妙な気を感じるもので、その効果はすぐに現れた。
「ぐ……ぐぐ、グォォォ!!!」
バキバキと、花蜜の体が蠕動するように作り替えられていく。
筋肉は盛り上がり、額にはツノが一本、生え出した。
そして……。
「ふ、ふ、ふぅ……待たせたな」
息を吐きながら、そう呟く。
「……妖魔になりましたか。しかし……不完全ですね」
人や気術士、それに邪術士などが妖魔へと変じることは昔からある。
ただ、それは偶然や恐ろしいほどの執念の結果であり、こんな風に何かドリンクを飲んだからと気軽になれるようなものではないはずだった。
それなのに………。
「……分かるか? 確かに、これは不完全だ……だが意図してのものだ」
「どういう……」
「完全に妖魔になってしまっては、もう元には戻れねぇだろ。だがこいつなら、しばらくすれば元の人間に戻れる。私は別に妖魔になりてぇわけじゃねぇからな」
「なるほど、半妖魔化して、自らの力を強化する薬剤、と言ったところですか……」
「いいところ突いてくるな。これは半妖魔化剤と言われている。まぁ……意味はその通りだな。そして半妖魔化すれば、力は元の何倍、場合によっては何十倍にもなる。さっきまでの私と思うんじゃねぇ」
「……ふん。そんなものの力を借りなければまともに戦えもしない者に心配されるようなことではありませんね」
「なんだと」
「御託はいいです……強くなったというのなら、かかってきなさい」
「言うじゃねぇか……後悔すんじゃねぇぞぉぉぉ!!」
そして、花蜜は咲耶に襲いかかる。
俺と龍輝は少し離れた場所からそれを見つめる。
「……いいのか、助けなくて」
龍輝が言ってくるが、
「いいだろ。むしろここで手を貸す方が怒られる」
と反論する。
龍輝もこれには頷いて、
「まぁ、そうか……ただ危なくなりそうだったら……」
「そりゃ、言うまでもない。ま、今は見物と行こう」
「あぁ」
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