第303話 龍輝の成果

 倒した邪術士を簀巻きにしてとりあえず転がす。

 見た目は俺より少し上くらいの女性だな。

 その割に、武術でもって挑んでくる侍みたいな女だったが……こんなのもいるのが邪術士の裾野の広いところだ。

 ただ、隠密活動には向いてなかったんじゃないか、と思わないでもないが。

 実際、昇降口のガラス扉を割って入ったの絶対こいつだろ。

 せめて鍵を壊して開けるくらいの繊細さを見せろというものだ。

 今更な話だが。


「……さて、こいつはとりあえずここに放置して、咲耶か龍輝と合流するか」


 問題はどっちと合流するかだが……龍輝かな。

 咲耶は気術棟に向かったが、龍輝は一般棟だ。

 気術棟の生徒会室に《幸運のお守り》が集めてあるので、最終目的地がそこになる。

 だからとりあえず龍輝と合流して、そこから生徒会室に向かうのが効率的だろう。

 問題は、気術棟にいる邪術士の方が強そうなことだろうが……。


「咲耶なら、なんとかするだろうさ」


 そう思ったので、さほど心配せずに龍輝のところに向かうことにした。


 *****


「……お? 武尊か。そっちはもう大丈夫か?」


 龍輝が俺に気づいてそう言った。

 彼の足元には巨体の男が倒れていて、白虎の人形が前足でペシペシと男を叩いていた。

 人形術に関して、かなり改造が進んでいて、俺たちの人形はほとんど人格に近いものを築きつつある。

 今も特に命令せずとも龍輝の人形は、本物の虎のように動いていた。


「あぁ、とりあえず簀巻きにして転がしてきたよ」


「大丈夫なのか? もし目覚めたら……」


「それを考えてここにいたのか?」


「そうそう。割とすぐに倒せはしたんだけどさ。この巨体だろ。こいつ相当頑丈そうだし、すぐに目覚めるんじゃないかと思って」


 確かにその男はデカかった。

 二メートル近くある上、筋骨隆々だ。

 気術士には珍しいタイプだな。

 東雲家にはいそうだが、意外にあの家で鍛えると体がむしろほっそりとした印象になる。

 脱ぐとすごいけどな。

 こういうアメリカンなタイプの筋肉のつき方をする者は少数派なのだった。

 

「そういうことなら、北御門の気術士を呼んで持ってって貰えばいいさ」


「呼べるのか? 学校だと遠距離系の気術通りにくいんだよな」


「そのために澪に上で待機してもらってるからな。そこ経由で呼ぶのさ」


「なるほど。頼んでいいか? 俺より武尊のが通りやすいだろう」


「もちろん、そのつもりだ。というか、すでに送った」


「お、悪いな……じゃあそろそろ行くか。気術棟……というか、生徒会室にもいるんだろ?」


「あぁ。どうも二人いるっぽいな」


 真気を察知するに、生徒会室前に、二人分の真気が感じられた。

 もちろん、咲耶を除いてだ。

 ただ戦っておらず、今のところは静止しているな。

 生徒会室の中に入るために何かしてるのかな?

 あそこはあそこでちゃんとした資格がないと押し込むのは無理になってる。

 咲耶はまだ、そこに向かってる途中だな。

 もう少しで到着する。

 ついたら接敵だろうから、今から急げば決着する前に間に合うかな?


「大丈夫なのか? 二人相手に」


 龍輝が少し心配そうな表情をするが、


「いざとなれば人形術も使えば複数相手でも問題ないだろう。っていうか、一人でも多分平気だろうしな」


「だといいんだけどな……よし、行こう」


 そして俺たちは生徒会室に走る。

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