第302話 戦闘
私、
何がとは、はっきり言えない。
けれどこいつはヤバい。
何か頭の中に、警報のようなものがガンガン鳴っているのを感じる。
普段から勘で生きている自分だからこそ分かるもの。
そんなものに頼るなと良く言われるけれど、それに頼ってきたからこそ邪術士という厳しい世界で死なずにいられたのだ。
だから今回も……。
感じたものに従い、私は構える。
武器は折り畳みの槍だ。
狭い空間では使いにくいように思われるが、浅桜家はそれを長槍としても短槍としても扱えるように武術を練磨してきた。
だから問題ない。
「……へぇ、意外だな。その感じで武闘派か。搦手で挑むタイプかと思ったが」
少年はそう言って笑う。
やはり、完全にこいつは敵だ。
私の、私たちの侵入を知って、探して追いかけてきたのだろう。
この学校の構造だ。
たとえ後から追いかけてきたとしても、構造を良く知っている者なら近道をして追いつくようになってるのだろう。
それこそ、気術士が得意とする搦手だ。
まぁどちらかと言えばそれは邪術士の方が得意なのだけれど、私は苦手である。
「槍一本で戦うのは私のやり方よ!!」
「ほう、なんだか最近会うのは面白い邪術士が多いな? その気合いに免じて、俺も刀一本で戦ってやる」
少年はそう言って、どこから唐突に刀を取り出した。
相当な業物なのだが一目見ただけで分かる。
あれほどの品は、実家にいた時すら見たことがない……。
危険だ。
古い武具は、宿す真気が膨大で、かつ特殊な力を内包しているものだ。
それを使われては、私にとって部が悪い。
けれど少年はそんな私の視線を理解したのか、
「……これが怖いか? 気持ちは分かるが……別に普通の使い方しかしないよ。変に力を解放すると、校舎ごと更地にしかねないからな」
と言ってくる。
「……そんな力が、あんたにあるの?」
「俺に、というよりこの刀に、だよ。俺にあるかどうかは……ほら、試してみたらいいんじゃないか?」
「上等ッ!!」
少年がゆらり、と構えた瞬間に、私は彼に襲いかかる。
じゃ術師とは言え、一対一で挑むときの作法は忘れてはいない。
お互いに構えたところから戦いは始まる。
こんな私のやり方をバカにする邪術士はたくさんいるし、合理性から考えると気持ちは分かる。
だが、私にとっては大事なことなのだ。
それに、そういう戦い方をするときの自分が一番強いことを知っている。
正々堂々……それが邪術士に堕ちたとはいえ、まだ残っている誇りだ。
槍を思い切り突き出すと、少年はそれをしっかりと見つめ、
「……悪くないな。突きの軌道を相手に読ませないように、視線と直角に突き込んでくるのもいい」
そう批評しながら、刀で軽く弾く。
「くっ……これならどう!」
弾かれると同時に柄の部分を短くし、小回りよく斬撃を打ち込む。
長槍の時とは違って重みは失われるものの、その分速度が上がり、かつ緩急が予想外になるので初見では反応し難い者が大半だ。
だからいける……と思ったのだが、
「俺はその槍の柄が分解できるところを見てるからな。予想できないということはないよ」
こともなげにそう言って、軽く体を逸らすことで避ける。
さらに、
「少しくらい指南してやってもいいが……いや、時間がないかな? この辺で終わらせておこうか」
そう行った瞬間、目の前から少年の姿が消えて、
──ガツッ!!
と後頭部に強い衝撃を受け、私は意識を失ったのだった。
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