第301話 侵入者
とりあえず、俺は昇降口に向かう。
降り立ったのが校門なのでここから一番近いのがそこだからだ。
加えて龍輝と咲耶がそれぞれ、一般棟と気術棟に向かっている。
だから俺の担当はここでいい。
「……お? これは……」
昇降口のドアが見えてきたが、強化ガラスで出来ているそれの一部が割られているのが見えた。
そこから侵入したのだろう。
今も移動しており、少し走って追いかけた方がよさそうだ。
向かっている方角は……しっかりと気術棟の生徒会室だが、校内の構造については詳しくないのか、遠回りの道を進んでいる。
そもそも、この学校の内部構造はかなり複雑だ。
初見だと確実に迷う。
それでも一般棟については覚えればなんとかなる、くらいなのだが、気術棟はさらに入り組んでいる上に、学校の生徒ではない者には幻惑の気術がかかったりする。
そのため、思った以上に外部の人間がこの学校を探索するのは難しい。
それでも来るのが、邪術士のようだが。
「先回りするか」
侵入者が進んでいる道とは別の近道を通れば、ちょうど二階の通路辺りで追いつく。
俺は少し足を早めた。
******
「なんでこの学校の廊下はこんな入り組んでるのよ……っ!!」
邪術士組織《黒い月》の構成員である
組織として《幸運のお守り》を売り捌き、適度に真気が収集できたことが分かったので回収することにしたはいいが、問題はそれがある場所だった。
よりにもよって、四大家が理事を務める関東における最上位の気術士養成学校として知られる、四季高校だったのだ。
ここで育成される気術士たちは、入った時こそは他の気術士の子供と比べて少し優れているくらいだが、卒業する頃には下級妖魔くらいなら普通に倒せるような腕利きになっている。
それらは日本中に存在する気術士組織に就職し、エリートとして気術界を引っ張っていくのだ。
四大家が今、日本中の気術士の総元締めのような役割になっているのは、ここがあるからだとも言われるほどである。
それでも他の大規模な気術士組織が作った教育機関などもあるので、一強状態とまではなっていないが、それでも表の気術士組織の中で最も強大なのが四大家なのは揺るがない。
そんなところが運営している高校に、なぜ《幸運のお守り》があるのか。
あれは気術士の手には渡らないように細心の注意を払って売られていたもののはずなのだが……。
まぁ、それでもあるものは仕方がない。
中身は高度な邪術知識を持って作られた術具であり、あまり詳しく調べられるのも良くない。
さっさと回収してしまって、こんなところとは早いところおさらばしたい。
そう思うのだが……。
「……また曲がり角? さっきから三回も回ってるわよ……二階しか歩いてないっていうのに」
学校の廊下は恐ろしく意地悪な構造をしていて、自分の位置すらわからなくなってくる。
窓の外の景色を見るも、気術で歪められているのかなんなのか、いまいち掴めない。
それでも一応、進んでいるらしいことはわかるのだが……。
やっぱり気術士の学校なのだから、気術士対策なのだろうか。
全く余計なことをしてくれる……。
そう思って歩いていると、
「……? 誰かいるの?」
視線の先に、どうやら人が立っているらしいのが分かる。
夜中だから、せいぜい用務員程度だろうと思っていたが、近づいてみるとどうも制服を着ているようだ。
学生?
「なんとか言いなさいよ!」
そう叫ぶと、その生徒はフッと笑っていう。
「そんなに喚くなよ」
近づいてきて、顔が露わになる。
それはなんの変哲もない、ただの生徒に見えた。
しかしそんな筈はない。
表情に焦りはなく、ただ余裕そうな微笑みだけがそこにあった。
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