第300話 侵入

 四大家による学校の警備活動が始まって、数日経った。

 警備とはいえ、見知らぬ大人が高校を歩き回っていれば、一般生徒はなんだなんだと思いそうなものだが、これについては学校に備わっている認識阻害系の気術がカバーする範囲のようだ。

 誰も不思議には思っておらず、すれ違っている時は教師だと思って挨拶していたりしていた。

 まぁ別に不審者というわけではなく、むしろ不審者から守る側だしな。

 問題はない。


 ただ、目的の不審者、の方はそんなにすぐには来なかった。

 まぁ今まで特に《幸運のお守り》を持っている者が襲われた、みたいな話はなかったから、まだ回収をする段階ではないのかもしれないな、とは思った。

 だから気長に待つしかないかなとも。

 けれど、二日前ほどに《幸運のお守り》がいつの間にかなくなっていた、みたいな話をする生徒をちらほら見かけるようになった。

 つまり、回収段階に入ったのだろう。

 こうなれば、大量に《幸運のお守り》を集めている生徒会室に来る可能性は増える。

 そう思い始めていた矢先のことだ。


「……お、来たっぽいな」


 家で咲耶と龍輝とゲームをしながら遊んでいたのだが、結界の方に反応があったため、俺はそう呟く。


「本当ですか? でしたら急ぎませんと」


 咲耶がそう言うと、続けて龍輝も、


「途中でやめるのは癪だけど、行かないわけにもいかないしなぁ……俺の負け越しで終わりか」


 と言った。

 確かにゲームは龍輝が十敗くらいしている。

 咲耶が一番うまいんだよな、意外に。

 やはり器用さにも才能が出るのだろうか。

 ちなみに俺はそこそこだ。

 才能という意味では俺が一番ないが、それだけに無難にコツを掴むのは得意だ。

 まぁ、ゲームがうまくても別に何か得するわけじゃないんだが。


「走って行くか?」


 俺が尋ねると、二人とも、


「そうですね」


「それしかないだろ」


 と言う。

 だがここで澪が、


「わしの背に乗っていくか? その方が早いぞ」


 と言ってくる。


「いいのか? 今日は家で予約開始まで待ってなきゃならないとか言ってただろ」


 何かの限定品が欲しいらしく、争奪戦のためにパソコンの前で待っていたいみたいなことを言っていたのだ。

 補助は別に家からでもできると。

 けれど澪は、


「うむ、構わんぞ。例のものは再販のアナウンスがされたでな」


「あぁ、そういう……じゃあ頼む」


 そして、澪は中庭に出ると龍の姿になった。

 彼女の背中には俺も咲耶も龍輝も乗ったことがあるので、すぐに背に登り、そしてものすごい速度で澪は飛んでいく。

 数分で学校まで辿り着き、俺たちは澪から飛び降りた。

 澪はそのまま学校上空で任務というか、俺たちの連絡役としていてくれる。

 加えて、学校から邪術士が逃げないかどうかの見張りもな。

 いれば捕まえておいてくれる。

 学校内で暴れるのはアレだが、外であれば多少は問題ないだろう、というわけだ。


 周囲は夜であり、学校の明かりは少ない。

 職員室とか、そういうところは明かりがついてはいるが、それだけだな。


「で、どこにいるんだ?」


 龍輝が尋ねてきたので、俺は答える。


「バラバラだな。昇降口と、気術棟と、一般棟にそれぞれいる……」


「三方向か。じゃあ俺たちも別れるか」


「それがいいでしょうね」


「じゃ、二人とも頼む」


 俺がそう言うと、


「おう」


「はい」


 それだけ言って、その場から消えた。

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