第295話 久々の学校

「……久しぶりの学校か」


 校門前に立ち、なんだか昨日までのゴタゴタとの落差に妙な感覚がした俺だった。

 気術士の学校とはいえ、なんだかんだ平和な場所なんだよな。

 それでも、生徒会が収めに頻繁に動かなければならないほどには、問題が色々あるのも間違いないけれど。


「……あんたたち、ここ一週間どこ行ってたのよ!」


 放課後、生徒会室に咲耶と一緒に入ると、会長からいきなりそんなことを言われる。

 

「どこって……仕事ですよ、会長」


「仕事ぉ!? ……四大家のってこと?」


「まぁ、そうですね」


 別にそれ自体は隠すようなことでもない。

 気術士は忙しい。

 たとえ生徒であっても、仕事があれば休むことはある。

 ただ今回の俺と咲耶は不在の時間が長すぎたな。

 流石に出張までする生徒の気術士はいない。

 普通は大体、放課後にちょろっとバイトする程度のものだ。

 それでも学費と生活費くらいは普通に稼げるので、気術士の稼ぎの良さがわかるな。

 その代わり、命懸けなわけだが。


「そうだったの……先生方に聞いても誰も教えてくれないから、心配したわよ。そう言うことなら構わないわ」


「その割に、随分とご立腹のように見えましたが……」


 咲耶がそう尋ねると、会長は言う。


「あぁ、ここのところだいぶ忙しくてね。武尊が琥珀から頼まれた例のやつ、解決してくれたでしょ? あれで安心してたら、今度はまた別の問題がね……」


「また行方不明者でも出ましたか?」


 俺が尋ねると、


「いいえ、それは出ていないわ。まだね・・・


「まだ?」


「……その危険性もあるかもってことよ。微妙なところで……」


「一体何が起こってるんです……」


「一般生徒の間でこんなものが流行っていてね」


 そう言って会長が出してきたのは、奇妙な紋章の描かれたお守りだった。

 おそらくは目がモチーフになっている、ちょっとおどろおどろしい感じの。

 しかもしっかりと良くない気を感じる。

 ただかなり微弱で、これ自体で何か問題がという感じもしないな。

 

「多少不幸を呼び込む術具もどき、と言ったところでしょうか?」


「そう見えるの?」


「ぱっと見には、ですが……」


 すると会長はため息をついて、


「それが、違うのよ……」


「違う?」


「これは、《幸福のお守り》を言われているの。それでうちの一般生徒に配られていてね……」


「本当ですか? 幸福を呼ぶような感じにはとても見えませんが……」


「でも実際に幸福になった、という生徒が何人かいるのよ。恋人が出来たとか、試験でいい成績取れたとかね。結果として口コミが広がっているの。で、持ってる生徒が増えてる」


「……それはそれは」


 なかなかやばそうだな。

 流れてる気の雰囲気と効果が違うと言うことは、中身がかなり工夫しているのかな。

 それとも……。


「これ、預からせてもらっても?」


 俺が尋ねると、会長は首を傾げて、


「どうして?」


 と言ってくる。

 俺は言う。


「俺、術具作りが趣味なんですよ。調べれば、詳しい効果や仕組みが分かるかもしれません。そうすれば、対策の取りようもあると思いますし……」


「へぇ、そうなの。意外ね。でもお願いできるならありがたいわ。今の所、没収するしか手段がなくて……」

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