第293話 重蔵への報告

「……重蔵様」


 資料等の回収を終え、建物から出ると、東雲家の剣士たちの姿がそこにはあった。

 その中でも一際強い覇気を放っている老人に俺は話しかける。


「おぉ、武尊、それに咲耶。どうだった? 何か見つかったか? それと、《壊れた歯車》の総帥は……」


 その顔は成果について疑っておらずなんだか申し訳ない気分になりながらも、俺は正直に全て説明する。


「それが……総帥の来栖玄を発見したのですが……」


「来栖玄か……名の知れた邪術士だな。しばらく姿を消していたが、こんなところにおったか」


 彼がそう言うのは、秋月によってもたらされた情報だと、別の名前だったからだな。

 当然、偽名というか、表に名前を知られないためのニックネームだったのだろうが、それを考えるとよく俺に名乗ったと思う。

 あの鬼も言っていたが、それなりに俺を認めて戦ってくれたのかも知れないな。

 

「ふむ、しかし浮かぬ顔だな。倒せなかったか?」


 重蔵がそう尋ねる。

 お前に限ってそんなことはあるまい、と視線で聞いていた。


「倒すことは出来ました……ただ」


「ただ?」


「その後に問題が」


「……何があった?」


 俺の表情に深刻なものがあることに気付いたのか、身を乗り出して重蔵は尋ねる。


「新手が現れました。その外見から、明らかに《鬼》、それも高位の者でした」


「戦ったのか?」


「いえ、戦う前に、術具を起動されました。どうも、邪術士たちの体内には自害用と思しき術具があるようで……」


「ふむ……」


「しかも起動方法が独特というか、無線での起動だったため、対応に遅れました。結果、来栖は……」


「死んだか」


「はい。面目しだいもございません……」


「いや、話を聞く限り仕方があるまい。わしだったとしても、それに即座に気づくことは出来んじゃろう。邪術士たちの技術開発力勝ちと言ったところか……死体は?」


「それは確保しています」


 《虚空庫》に投げ込んである。

 実は生物を入れると怖いところがあるのだが死体であれば何も関係がない。

 人は死ねばただの物体に過ぎない。

 魂について考え出すとそうも言い切れないような気も最近してきているのだが、《虚空庫》に入れる分にはあまり気にしすぎることはないだろう。


「それだけでも十分だろう。来栖が死んだということをはっきり確認できるし、体内にあるらしい術具についても調べられるはずだ。記憶についてはそれ専門の家に任せるしかないが……その辺りの対策はしてあるだろうしな。難航しそうだが……」


「重蔵様たちの方は、《壊れた歯車》の構成員をかなり確保されたようですね」


「うむ。流石に全員とはいかんが、可能な限り殺さんようにしたからな。奴らから得られる情報もいろいろあるだろうし、今回の作戦は概ね成功したと言っていいだろう」


「そうですね……」


「珍しく落ち込んでおるが、気にすることはない。邪術士との戦いは長期戦だからな。今回得られたものを可能な限り次に活かせばいいだけだ。ここからは奴らの移送とか尋問とか、色々やらねばならんしな。休んでいる時間はないぞ」


「はい」


「咲耶も美智への報告を頼む。参加しておる北御門の者たちもするだろうが、武尊と来栖の戦いや会話を聞いたのはお前だけだからな。出来れば、文書などにしてうちにも教えてくれるとありがたい」


 話を振られた咲耶は頷いて、


「もちろんです。今後とも、良き関係を」


「それこそ当然の話だ。こういう暴れる機会をもらえるのは東雲家にとってはありがたい話だしな」

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