第291話 口封じ

「……さて、こんなところか」


 来栖を気絶させた後、俺と咲耶はひたすらに家探しすることにした。

 《壊れた歯車》の総帥である来栖が籠っていた部屋だけあり、大量の書物や書類がそこにはあった。

 全てを《虚空庫》に放り込んでいき、そしてついに在庫がなくなったところで俺はそう呟いた。


「他の部屋にもいろいろあるかと思うのですが……」


「確かにな。戻りながら回収していこうか。ここに来る最中はバレないようにと何も手を出せなかったしな」


「そうですね」


 そして、来栖を連れていくために背負おうとすると……。


「……ッ!?」


 急に、何者かに切り付けられた。

 俺はそれを慌てて避けて距離を取る。

 たった今のいままで、この部屋には俺たち以外の気配は存在しなかったにも関わらず、だ。


「……ほう、避けたか」


「……貴様、誰だ」


 見ると、そこには大柄な青年が一人、立っていた。

 手には大刀を携えていて、どこか古風な鎧を身につけている。

 それにあれは……。


「名乗るはずなかろう? それよりも、命令だ。それ・・を置いていけ。それはうちのものなんでな」


「それだと?」


「お前が肩に担いでるものだよ」


「……来栖のことか」


「そいつが名乗ったのか? なるほど、であれば後悔もないだろう」


「何の話を……」


 よくわからない男の言葉にそう口にすると、男は手を掲げた。

 すると、


「うぅっ……」


 と、急に来栖が苦しみ出す。

 何が起こったのかわからず、ただ男が何かしているのかは明らかなので遮断すべく、結界を張った。

 しかし……。


「無駄だ」


「が、がはっ……」


 来栖の苦しみは止まらず、口からボタボタと血が吐き出される。

 そしてカッ、と目を見開くと、来栖はそのまま絶命してしまった。


「馬鹿な……気術邪術の類は遮断したはずだ……」


 俺が驚いてそう言うと、男は馬鹿にしたように笑い、


「これだから時代遅れの気術士はくだらないな……」


「なんだと……」


「まぁ、何も分からないのも可哀想であるし、一応説明してやろう。そいつの体内には、術具が埋め込まれていてな……それを起動しただけだ」


「だが……」


「気を感じなかったと? それはそうだ。スイッチは機械式だからな。つまりはただの無線だ。しかし、起動した後は邪術が発動する。体内の全ての内臓をズタズタにする邪術が……」


 それを聞きながら、なるほどなと思った。

 妙な気配が体内にあるのは察していたが、放置したところで問題ないだろうと思っていた。

 しかしこんなことになってしまうとは……。

 機械は確かにいまだに詳しくないからな。

 スマホパソコンタブレットは人並みに使えるが、術具開発に応用できているかと言われると、さっぱりで……。

 邪術士たちは、その辺り、先進的すぎる。

 これは盲点だった。

 結界はあくまでも気術や、攻撃的な物理的現象だけを遮断するように構成してたのも仇になった。

 次は電波もある程度遮断できるようにしておくべきだろう。


「なぜこんなことを。こいつはお前の仲間じゃないのか」


「仲間か……同胞ではあるが、仲間と言われると疑問だな」


「同胞……まさかお前、《闇天会》の……?」


「その名前くらいは知っているか。ふっ……さぁな。ともあれ、俺の目的は済んだ。帰らせてもらうよ」


「待てッ!」


 そしてそのまま、男の姿が消えていく。


「武尊さま……あれは」


 咲耶がそう言ってきたので、俺は答える。


「あぁ、額に生えた角……あれは鬼だろうな」


「邪術士は、妖魔と協力をしているのですね」


「丹月のことを考えればおかしくはないな。しかし、こうまで見事に消えられるとは……さっさと倒すべきだったか」


「あれだけ気配が希薄であれば、仕方がありません。とりあえず、資料を収集し、おばあさまに報告しましょう」


「そうだな」

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