第290話 総帥
大扉を開き、中に入る。
すると……。
「……お前たちは何者だ? うちの者じゃないな?」
と部屋の中で座っていた男が立ち上がり、誰何してくる。
手には刀を持ち、鞘から抜き放ちつつある。
臨戦態勢だな。
俺は咲耶に身振りで下がるように指示してから、答える。
「……四大家の者だよ。お前たち……《壊れた歯車》を壊滅させにやってきた。覚悟するといい」
「四大家? なぜここが……それにしても先ほどから侵入者だなんだと騒がしいと思っていたら、そういうことだったか。ここまで来られたということは……ふっ。俺の夢ももう終わりということか」
「邪術士に叶えられる夢なんて、ないんだよ」
「それはお前たちの価値観だな。邪術士になってこそ。叶えられる夢はある……そう、死者蘇生とかな」
「死者蘇生だと?」
「そうさ。お前たちには無理だろう?」
「俺たちに、というより人間では誰にも不可能なことだ……」
本来なら。
ただ俺はその奇跡を体現した存在でもある。
あくまでも、俺の力ではなく、温羅の力だが。
「人間では? 妙な言い方をする……」
「ただの言葉の綾だ」
「そうか……? まぁ、いい。どちらにしろ、もはや終わりだ。かくなる上は、一人でも気術士を道連れにするのみ。かかってくるといい、若造」
「若造ね……あんた、名前は?」
「……《壊れた歯車》総帥、
「あんたが総帥か」
「お前は?」
「北御門が分家、高森家の武尊だ」
「武尊か……いい名前だ。尊様にあやかったか」
「尊様だと? お前、北御門出身か」
「いいや。だが彼の偉業を知らぬ気術士はおるまい。小さな頃は、憧れたものだ……」
妙なところにおかしなファンがいたものだ。
「そうか……」
「最後に来たのが、北御門の者なら悪くもあるまい。さぁ、もう話は終わりだ。聞きたいことがあるのなら、勝ってからにするといい」
「……そうだな」
そして、男はジリジリと距離を詰めてくる。
やはり、強大な真気を男は帯びている。
当然のごとく身体強化はしているな。
油断は出来なさそうだが……。
「参る!」
距離がほんの数歩のところまで辿り着くと、男は動きを素早いものへと変化させた。
刀を下から切り上げてくる。
剣筋は……悪くないな。
少なくとも、東雲家の高弟並みの実力はあると見た。
俺も刀を取り出し、弾く。
「……防ぐか。まだまだ!!」
少し後ろに下がり、そして勢いをつけて切り掛かってくる。
俺はそれを横にずれることで避けるが、来栖はすぐに反応して斬撃の向きを変えてきた。
再度刀で弾こうとするが、来栖は齧り付くようについてきて、鍔迫り合いになる。
「……死ねぇ!!」
裂帛の気合いを込めてそう叫ぶ来栖の迫力は相当なものだ。
やはり、邪術士組織の総帥まで務める男になると、器量が違うな。
だが……。
「俺は死なないさ」
少し真気の量を増やし、身体強化の強度を上げる。
するとこちらに押し込まれていた刀が、徐々に向こうへと傾いていく。
「……なっ……! 貴様……」
「お前じゃ俺には勝てない。じゃあな」
そして、完全に弾き飛ばし、そのまま腹に峰打ちを入れると、
「……ぐ、ぐは……」
少し血を吐いて来栖は倒れたのだった。
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