第288話 《壊れた歯車》アジト
「……隠れ蓑は山奥の寺か。ありがちといえばありがちだが、だからこそ気づきにくくもある」
某県の山深い地に、その寺はあった。
途中までというか、東京からは新幹線でやってきて、現地の気術士組織に車を出してもらって、やっと辿り着けるような、そんな場所なのだ。
もちろん、気付かれないようにあくまでも現地の気術士組織を訪問する、みたいな体で来ている。
さらにその気術士組織の支部からも遠いので、そこからは普通に徒歩だ。
気術を使えば車と同じくらいの速度でやってくることができると言えばできるが、それでも疲れる。
「良くもまぁ、こんな不便なところにアジトなど設けたものですね」
横で山寺を伺っている咲耶がそう呟いた。
眉を顰めて、本気である種、感心したような表情でいるから本年なのだろう。
「事実、誰も今まで気づかなかったわけだしな。現地組織すら、ここに邪術士組織があるなんて思ってなかったみたいだし」
「その辺りは秋月京の技術なのでしょうね。彼が纏っていたという術具によって、真気を一般人とほぼ同じように見せられるわけですから」
「そう考えると、あいつは各方面で優秀だよな……まぁあの術具は他の邪術士組織にも渡っていると考えなきゃならないから、面倒にしてくれたとも言えるが」
秋月によれば、邪術士同士の技術の融通のし合いは結構盛んらしい。
しかも、かなり公平というか、発明した技術を吸い取られていいように使われておしまい、みたいなことにはならない仕組みをとっているという。
しっかりと評価して、組織内での地位や報酬として還元されていたという。
……本当に気術士なんかよりも遥かにホワイト企業やってるな、という感じだが実質は人様に迷惑をかける奴らの集団だからな。
慈悲は不要だ。
秋月のように、更生のしようがあるのであれば引き込むことも考えた方がいいとは思うが、そうじゃないならば殲滅以外にない。
《壊れた歯車》については、主要な構成メンバーも秋月によって名簿化されていて、使えるやつとそうでないのが誰か、割とはっきり分かっているので楽な仕事だ。
本当に今回についてはあいつ様様である。
──チカッ、チカッ!
と、気術による合図がこちらに送られた。
どうやら俺たちとは異なる班が、侵入を開始したらしい。
「……俺たちも行くか」
「ええ、正面は彼らに任せて、私たちは静かに侵入し、資料などを収集する、ですね」
「《虚空庫》のデカい奴がやった方がより多くの証拠や資料を集められるからな。美智様以外だと、俺と咲耶が一番向いてるが、北御門はいずれも似たような任務に振られてるからな……正面はまぁ、東雲の兄さん方が好き勝手暴れるだろ」
流石に美智は今回、来ていないが、重蔵は普通にやって来ている。
俺と和解してしまってからは、もう好き勝手に生きることに決めたようで、前線にガンガン出てくるのだ。
あの歳で。
しかも強いからまず力負けすることがない。
正面から単純な腕力で挑んだら俺だってあいつには勝てない。
《壊れた歯車》の連中の苦労が偲ばれる。
「……あっ、正門が破壊されましたわね」
「重蔵様が吹っ飛ばしてるな。あんまりうかうかしてると更地にされてしまう。行くぞ、咲耶」
「はい」
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