第287話 壊滅

「合同で、ですか……」


 俺がそう呟くと、美智は言う。


「気に食わないかしら?」


「あぁ、いえ、そんなことは全く。むしろ東雲家の強力な剣士達と轡を並べられるのは心強く思います」


「なら……」


「いえ、他の二家は……と少し気になって」


 四大家のうち、北御門と東雲の二つの家が協力して邪術士組織の壊滅に挑むというのは、結構大がかりな話だ。

 そしてそうであればこそ、他の二つの家……西園寺家と南雲家が何も反応しないと言うこともあり得ないだろうと。

 しかし、それらの家には色々と怪しげなところがある。

 後ろから刺されるようなことは無いか、と少し心配だった。

 これに美智は、


「その二家には特に何も言っていないわ」


 とさらりと言う。

 これには咲耶が首を傾げて、


「言わなくてもよろしいのでしょうか? 邪術士組織の壊滅させるためには、他の家の協力もあった方がいいように思いますが……」


 と尋ねる。

 彼女は俺や美智と違って、四大家のどの家についても、怪しむような考えが無いからこそだった。

 麗華を通じて、景子自身にはあまり好感を持てない、くらいの感じだな。

 それでも、四大家全ての目的は、妖魔の討伐、壊滅であり、そこに揺らぎは無いのだと、そう考えている。

 これは基本的な気術士の考え方なので、おかしくない。

 俺と美智が抱えている情報、そしてそこから導かれる答えこそが、異端なのだ。

 いずれは咲耶にもこちら側についてほしいとは思うが、今話すのは難しい。

 知っているだけで彼女が危険かもしれないからだ。

 教える時期については、まだ尚早だと俺も美智も考えている。

 しかしだからこそ、どう説明したものか難しい。

 どうするのか、と美智の言葉を待っていると、彼女は言った。


「さっき言ったけれど、今回の情報源の秋月京は、西園寺家にあまりいい思いを持っていなくてね。今回の提案についても話したところ、彼は西園寺家に手柄をよこしたくないと言ったの」


 なるほど、そう来るか。

 これが本当なのか嘘なのかは分からないが、西園寺家にいい思いを持ってないというのは本当だろうし、そこからすれば、わざわざ手柄なんて、という気持ちになるのも自然だろう。

 邪術士組織の壊滅、それは気術士にとって十分な手柄になるからな。

 自分の持ち込んだ情報の使い道くらい、少しは口出ししたいと、そういう考えになってもおかしくはない。

 実際、咲耶は納得したようで、


「そういうことでしたか……しかし南雲家は?」


「咲耶は知ってるかどうか分からないけど、西園寺の当主……景子と南雲の当主の慎司は昔から仲が良くてね。どちらかに話を流せば必ずもう片方にも届いてしまうのよ」


「そうなのですか」


「ええ……ま、そういうわけで、今回はあくまでもうちと東雲家でやるわ。戦力的には十分だしね。小さな邪術士組織ごときに、四大家が二家も出るなんてむしろ過剰かもしれないくらいに」


 これは自信過剰では無いだろう。

 その気になれば、四大家一つでも十分だと思われる。

 それなのに二家とは、というわけだ。

 

「本気で叩き潰すつもりなのですね」


「もちろん。ただ目的はそれだけじゃなくて、情報よ。《闇天会》、そこに繋がる情報。今まで気術士は、地下に潜る邪術士達に対してあまり積極的には関知してこなかったけど、姿が見えなかったからと言うのが大きい。はっきりと見えれば……」


 潰すのはたやすい。

 そういうことだった。

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