第285話 本家での報告

「……二人とも、お手柄ね」


 北御門本家、当主の間において美智がそう言った。

 彼女の前にいるのは、今は俺と咲耶だけだ。

 先程までは主要な家の当主たちが揃っていたが、報告や議論を終えたあとは、速やかにそれぞれの仕事を遂行すべく戻っていった。

 俺と咲耶だけは残された。

 他の家だとこういう扱いをされると嫉妬がとか足を引っ張るとかそういうことがありうるが、北御門家はそういうことがほとんどない。

 絶対にないとまでは言い切れないが……比較的仲がいい方なのだよな。

 東雲家も近いが、あっちが師弟関係で成り立っているとすれば、北御門家は素直に家同士の親戚繋がり、みたいな方に近い。

 どっちがいいかはなんとも言えないが。


「いえ、そんなことは……」


 咲耶はそう言うが美智は続ける。


「いいえ、間違いなくお手柄よ。最初は単体の邪術士、もしくは組織が活動しているくらいのものだと思っていたけれど……調べてみるとまぁ大規模。しかもやろうとしていたことが、国民全体に電波を通じての思考誘導だったなんて、誰も想像していなかったわ」


 まぁ、正直俺にしても咲耶にしても想像していなかった。

 そもそもこんなに静かにそう言うことを勧めてきた邪術士たちの隠密能力こそを褒めるべきだな。

 気術士のネットワークは深く広い。

 それにすら掴まれずにここまでの段階まで誰にも気づかせなかったのだから、相当なものだ。

 実現したところで思考誘導は微弱なものに過ぎなかったからこそかもしれないが、微弱であっても長年続ければかなりの影響になることは言うまでもない。

 それこそ、重蔵の例を見ればな、はっきりと分かる。

 そういえば考えてみると重蔵のそれとかなり重なることがあるが……何か関係があるのだろうか?

 重蔵は妖魔にやられたのだろうという話だったが、邪術士とも関係がある?

 分からないな……。


「奴らは他の施設や放送局にもいろいろとやっていたと言うことですが……」


 俺がそう言うと、美智はいう。


「それについては武尊ちゃん。貴方が捕まえてきた彼……秋月京あきづききょうが色々と協力してくれたことが大きいわ。あれほど有能な邪術士が、しかも複数いるのであれば……四大家としても邪術士に対し、うかうかしてられないわね」


「それほどでしたか」


 というか、あいつそんな名前だったんだな。

 表向きというか、マネージャーとして名乗っていた名前は別だったから意外だ。

 それに秋月といえば……。


「秋月家は、確か西園寺の分家ですね……あちらに情報共有の必要などは?」


 咲耶が思い出したようにそう呟く。

 美智は、


「ええ、その通りね。でも、すでにお取りつぶしになっているから、その必要はないわ」


「そうでしたか? 名前は残っていたような……」


「名前だけ、残っているに過ぎなくてね。それもあって、京は北御門に協力的なのよ。交換条件も色々出したし」


「交換条件?」


「秋月家がお取りつぶしになった経緯に、妙なところがあったようでね。そのゴタゴタの中で、彼は邪術士に身を落としたそうなの。本意ではなかったと言っていたわ」


「それは本音なのでしょうか?」


「同意のもと、心を読ませてもらったから掛け値なしの本音ね。そしてそういう事情なら、うちには受けいれる用意がある。もちろん、表に出すわけには行かないから、影としてということになるけど、それでも構わないと彼は言ったわ」


「なるほど……」


 二人の会話を聞きながら、あいつにも本当に色々あったんだな、と思った。

 もっと個人的な事情かと思っていたが、むしろ俺が共感できるような話だな。

 あいつも景子の被害者じゃないか?

 話が妙に合った理由がわかった気がした。

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