第282話 実力
そこまで筋金入りの悪、って感じのやつでもないなというのがここまでの男の印象だった。
そしてそれはおそらく正しい。
邪術士というのはここが難しいところだ。
別に、全員が世界を滅ぼそうとか人類を殺し尽くそうとか非倫理的な何かに完全に手を染めてしまっているとか、そういうわけではないのだ。
ただ、通常の気術士の生き方からは許されない生き方を選択した者たち。
基本的にはそれだけだ。
だから悪人具合にはグラデーションがある。
この男はかなりまともな方なのだろうな。
それでも、一般人に多大なる迷惑をかけているわけで、悪人であるのは間違いないが。
敵対する気術士と見たら、初手から殺しにかかってきたしな……。
まぁそれは、気術士としては普通か。
相手が行動を起こす前にやってしまうのが一番だということをみんな叩き込まれるから。
でなければ妖魔退治なんて生業になどできたものじゃない。
『……さて。そろそろ諦めたということでいいですかね?』
男がそう尋ねる。
俺は炎霊によって、スタジオの端の方、逃げ場のない空間にまで追い詰められていた。
そもそもが全方向から攻撃してくるから、どこにいても同じだろうが、それでももう後退できないというのは戦う上で、かなり不利になるのは間違いない。
だからこその男の言葉だろう。
「気術士は、どんな局面になっても諦めることはないさ。最後の最後まで喰らいつく……」
『あぁ、本当に貴方はいい気術士なのですね。私もかつてはそのような気術士目指して研鑽していたものですが……』
「道を踏み外さなければよかったのに」
『今更な話です。私は……っと、身の上話をしかけてしまったじゃないですか。ともあれ、最後にもう一度だけ聞きましょう。我らに与しませんか? 待遇は保障しますよ』
「何度聞かれても同じさ。答えはノーだ」
『そうですか……残念です。では、ここでさようならということで。貴方のことは忘れません……炎霊よ! やれ!!』
そして、炎霊は俺に向かって全身全霊の一撃を放つべく真気を集約した。
目の前に巨大な火球が完成し、そしてそれが俺に放たれる。
命中すれば確実に骨も残らず焼き尽くされてしまうだろうな、と思われる規模だった。
「……普通なら、な」
『……何!?』
ここに来て初めて、男の焦るような声が響く。
それも当然で、俺に命中し、焼き尽くすはずだった火球は俺の目の前でかき消えたからだ。
言うまでもなく、俺がこの手でかき消した。
炎術系は昔から知り合いがよく使っているから、対策も万全なんだよな。
見慣れているというのもある。
これ以上の規模のものを、だ。
『え、炎霊! 続けるのだ!』
男は慌ててそう叫び、炎霊もそれに従い攻撃を続ける。
火球はいうまでもなく、炎の矢や槍、それに火炎の壁や竜巻などが俺に襲いかかってくる。
けれど、その全てを俺は腕を振るってかき消した。
「……終わりか?」
『馬鹿な……』
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