第281話 解説

 炎によって形作られた三メートルほどの巨人。

 それが男の呼び出した存在だった。

 俺はそれを見て思う。

  

 ──珍しいな。


 と。

 召喚系の気術は日本においてはかなり珍しい。

 それは古くから存在する日本固有の妖魔、そして国土全域に張り巡らされた地脈により、人間が従えられるような霊的存在がほとんどいないからだ。

 しかし、外国においてはこの限りではなかったりする。

 向こうには精霊エレメントと呼ばれる存在がいて、それらは人間と契約し、力を貸すという。

 ちょうど俺の式鬼と同じような形だが……ただ規模が違うからな。

 割とそこそこの腕の術士……向こうでは魔術師ということが多いようだが、それでも契約できるらしい。

 ただし、術士の腕によってどれだけ強力な精霊と契約できるかは異なるようだが。

 なぜこんな話をしているか、と言うと、それは男の呼び出したそれが、話に聞く精霊に酷似しているからだ。

 

「……そいつはなんだ? 見たことがないな」


 何も推測もできないふりして尋ねると、気前のいい男らしく答える。


『おや、君でもご存知ないですか?』


「俺を評価してくれてるみたいだからありがたいが、残念ながらな」


『ならば教えてあげましょう……こいつの攻撃に耐えられた時間分だけ、ねっ!」


 そして男は炎霊とやらに指示を出したようだ。

 炎霊は動き出し、そして俺に向かってかかってくる。

 全身が燃え上がっているため、触れるだけで普通の人間は大怪我だろうな。

 炎霊の腕が目の前を掠めると、熱気ですらも全てを焼き尽くさんばかりに熱い。

 ただし、スタジオ全体が燃え上がるようなことは特にないようだ。

 その辺りはうまくコントロールできているのだろうな。

 炎霊の攻撃を俺が避けるたび、約束通り男は言う。


『これは炎霊……外国においてはイフリートと呼ばれる存在です。ただ、この国において存在させるために、色々とはさんではいますがね』


 やはり、精霊エレメントのようだな。 

 しかしだとすれば、このような使い方は珍しいのではないだろうか。

 力を借りる、というが本来は魔術を使用するための触媒となってもらうらしいからな。

 こうやって現界させるのは大変だと聞く。

 ……それが挟んでいる、と言っている部分か?


 考えながら力量を測る。

 まぁ……弱くはないが、全てを出し切れている感じはしないな。

 徐々に感じられる圧力がわずかだが減少しているのを感じる。

 何かの器に力を封じている、か?

 だとすれば外国から連れてきてもいけるのかもしれないな。

 しかしそこまでする価値は……俺にとってはないが、一般的な気術士であれば悪くないのかもしれない。

 真気タンクとして考えるとかなり優秀に思える。

 

『そろそろ避けるのがキツくなってきたようですね? 服がところどころ焦げてきていますよ』


「……ふん。服だけさ。それより説明はどうした?」


 炎霊から、大量の炎の槍が俺に向かって放たれる。

 いくつかを避け、真正面から来たものは盾で逸らす。


『おっと、そうでしたね。この炎霊についてはさほど説明できることもないですが……日本にはいないこいつを、ここに存在し続けさせるのは中々難しいのですよ。そのための触媒として使っているのは……古い木乃伊みいらです』


「木乃伊?」


『ええ、即身仏とかね…… ああいったものは、我々にとって得難い触媒になる。ご存知でしょう?』


「確かにな……少し安心したよ」


『何がでしょう?』


「生きた人間が触媒とか言われなくて、さ」


『人間など……まぁ邪術士にも色々いますがね。私はそこまで非人道的なことはしませんよ』


 戦いはそうして続いていく。

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