第279話 目的
「《闇天会》か……」
俺がその単語に反応すると、男は言う。
『そうです、貴方も高校生とはいえ、気術士の端くれなのですからその名前くらい聞いたことがあるでしょう?』
「……確かにな。邪術士組織、その中でもそれと知られた組織いくつかで組んでいる、連合のようなもの、だったか? 具体的に所属する邪術士組織の名前や、《闇天会》がどのような悪事を行なっているからははっきりとはしないが、それでも名前だけはまことしやかに囁かれている……」
『思ったよりご存じですね。そう、その通りです。《壊れた歯車》は、ついこの間、その功績が認められて参加が認められた新参ですが、それでも実力が認められたのは事実です。今入れば、きっとかなりの旨みも期待できますよ! 先ほど言った通り、福利厚生もいいですし!』
なんかめっちゃ福利厚生を推すな。
そりゃ大事だけど……というか気術士関係の組織って確かにその辺りは昭和のブラック企業もかくやと言うレベルで悪いのは事実だ。
記者じゃないが、妖魔相手の夜討ち朝駆けみたいなの当たり前というか。
勤務時間が明確に決まっているわけでもなく、忙しい時は本当に眠れないほどに忙しくなるし。
そもそも常に死の危険がある仕事である
それを考えれば、邪術士になって福利厚生のいい職場に……と言う言葉に惹かれる者もいないとは言えないな……。
俺としてもちょっと興味が……なんてことはないけれど。
ただ一瞬、誘いに乗って潜入とかどうかな、とか思わないでもなかった。
しかし、それはそう簡単な話でもないだろう。
俺ってすぐにボロを出してしまいそうな気もするし、よっぽど手段がない、という場合じゃない限り、やめておいた方がよさそうに思う。
ただ、すぐに断って何の情報も抜けないのはアレなので、話は合わせる。
「もし入った場合、具体的には何をやるんだ?」
『お、乗り気ですか? そうですね、最近ですと……合成妖魔の研究・製造とかですかね。他には、今回のこともあります』
合成妖魔。
南雲家が関わってるって話だったが……やはり邪術士にも繋がりがあったんだなと分かる。
そして今回のことは……。
「三隅結にかけた《
俺が尋ねると男は答える。
『ええ。厳密に言うと、放送局周りについて色々、という感じですけどね』
「放送局?」
『はい。三隅は非常に売れている女優ですが……ですからテレビに出る機会が非常に多いですよね。《闇天会》としては、電波を通じた邪気の放出・収集について色々と研究してまして、そのための前準備に私が動いていたのですよ。まぁ、私の担当はここだけでしたが』
「電波を通じた……それをやってどうなるんだ?」
『今は大したことはできませんね。完全な洗脳を目標にしていますが、今ですと微弱な誘導程度でしょうか。けれど、それが出来るだけでも社会に与えられるインパクトは非常に大きくなりますから』
洗脳、誘導か……確かにそれを効率的にやろうと思うなら、電波は使い勝手のいい道具か。
しかし邪術士はそんな研究までやっているんだな。
分野によっては気術士よりも色々と進んでいそうな感じがする。
機会は気術士にとってあまり得意ではない分野だから……。
「三隅はあくまでもついでというか、テレビにたくさん出そうな人間だからってだけか?」
『そうですよ。邪術にも視聴率は重要というわけです。他にも何人かには似たようなことをしていると聞きますが、私の担当ではないので詳しくは……まぁこれ以上は、うちに入ってからということで。で、どうです? 興味は湧きましたか?』
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