第278話 プラン

 この邪術士を前に、どうやって戦うか。

 事前にいくつかパターンは考えてはいたが、この感じなら……。


「……プランBかな」


『プラン? この私を相手にプランなどあるものか!』


 どこから発したのか分からない妙な響きの声がそう叫んだ直後、あらゆる方向から短刀が飛んでくる。

 だいぶ自信がありそうな感じから察してはいたが、対人戦にはかなりの強さを発揮しそうなタイプだな。

 自分の気配や姿を隠蔽することで相手から攻撃される可能性を極限まで減らし、自分は近づかずに離れた場所から延々と攻撃し続ける。

 やり方としては十分に合理的だ。

 ……俺が相手じゃなければ、という但し書きはつくけれど。

 ペラペラ喋ってくれそうなのは、確実に俺を倒し切れると確信しているからなんだろうな。

 これくらいの力があれば、まぁ……俺くらいの年齢の一般的な気術士は相手にならないか。

 

 そんなことを考えつつ、俺は再度、結界を張り直す。

 先ほどの結界はどんなタイプの攻撃からでも身を守れるように強めのを張っておいたが、意図的に弱目のものにする。

 そして、全方向型ではなく、あくまでも一方向防御にし、飛んでくる短刀を自らの体を大きく動かすことによって弾いて、ギリギリ避けているように見せることにした。

 しかし、そんな俺を嘲笑うように次々と短刀は飛んでくる。

 

『ほらほら! いつまでもそんなことをやっているとジリ貧ですよ!』


 ……なるほど。

 じゃあ少しばかり当たってやるか?

 頰あたりを掠めるような形で短刀の弾道が来るように計算して動く。

 毒などは……塗ってあるようだな。

 ただ麻痺系だ。

 一撃で殺すつもりはないということかな。

 これを優しいと取るか、痛めつけるためにあえてそうしていると取るか。

 ……まぁ、後者だろうなぁ。

 ただし、俺の場合、仙核によって身体の恒常性が維持されるために毒は基本的に一切効かない。

 一滴で象を殺す毒、なんてものとか持って来られても、全く効かない。

 これを知った時、俺はとうとう俺って人間を辞めつつあるのか、と思ったのは言うまでもない。

 ただ、それじゃあ人生面白くないというか、酒も将来飲んだところで楽しめなくなってしまうため、意図的にその機能を切ること、弱めることは出来る。

 麻痺は……まぁちょっとピリピリするくらいにしておくか?

 電気風呂感覚だとちょうどいいだろう。

 あんまり弱くしすぎると演技しなきゃならなくなるし、面倒くさいからな……。


「……ふっ、く……!!」


 電気風呂に入っているかのようなピリピリ感はどことなく気持ちよさを感じるが……。


『辛そうですねぇ……一人で私を相手にしようなど、傲慢だったのではありませんか? 今からでもあの娘を呼んではいかがです? 式神くらいは使えるでしょう? 右手の麻痺は解いておきますから』


 男はそんなことを言う。

 

「……誰がそんなことを」


『ふっふっふ、男の子ですねぇ……あぁ、そうだ! 君もうちに入りませんか!? 邪術士は常に人が足りてませんから、人材募集中なのですよ! 私相手にこれほど持ち堪えられる高校生なら、十分に見込みがあります!』


「……あんたの組織の《壊れた歯車》ってところにか?」


 さっき言っていたが、聞いたことないんだよな。

 邪術士系の組織は星の数ほどあるが、有名なところと全く無名なところがある。

 地下に潜っている奴らだけあって、有名ならいいということでもないのだが、やはり強力な術士がいるところは必然的に有名になっていくというのはある。


『その通りです。うちは福利厚生しっかりしてますからいいですよ。お給料もいいです。それに、《闇天会》にも末席ながら参加しておりますし……』

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