第275話 遮断
「さて、とりあえずは……っと」
スタジオの外に出て、俺は結界を張ることにした。
スタジオ建物全体を囲うほどの巨大なものだ。
普通なら一人で張れるような規模ではないのだが、俺には地脈から来る、無尽蔵の真気があるから何も問題はない。
ちなみに仙術系だと効果が強すぎて問題なので、気術系だな。
仙術はみな、強力な効果を発揮するものの、強力すぎて使い所が難しいものが多い。
飛行術とかその辺くらいだな、常用できるのは。
「……こんなところでいいか」
ちなみに張った結界は、邪気や妖気、それに真気についても外部からの流入を遮断するものだ。
物質的なものは普通に透過する。
空気とかの出入りなくなったらやばいからな……。
仙術なら、そういうものすらも完全に遮断できるが、別に俺はスタッフや演者たちを抹殺したいわけではないのでそんなことはしない。
それから俺はスタジオの中に戻る。
建物内において術の起点になりうるところを見回り、どこにも《呪》の類がないことを確認し、俺は頷いた。
「ま、これでいいだろ……」
あとは、気長に待つだけだ。
来ないかもしれない。
しかし、来る可能性もあった。
つまり、これは釣りなのだ。
ここに、もしくは三隅に術をかけ続けていた奴がいるとして、そいつは常に三隅の様子を確認していたはずだ。
どういう方法かは分からないが……ただ術によって遠隔で見ていたということはないと思うんだよな。
流石にそういう気配があれば、俺は気づく。
しかし、ただ物理的に見にきている、とかになると俺にはわからない可能性はある。
真気を見れば気術士かどうかはすぐにわかるが、術具の中にはそういった気配を完全に隠すもの、一般人と誤認させるものがある。
近づけばそれでも分かるのだが、少し離れると見間違うことはありうる。
「頼む、きてくれ……」
これが失敗すれば、邪気の流れを追いかけて逆探知するしかなくなるが、これは途中で切られると手がかりがなくなってしまうので最後の手段になる。
だから、それは可能な限りしたくなかった。
******
そして、撮影がしばらく進むと、
「……失礼します」
とスタジオに新たに人がやって来る。
見ればかなりの美人とそのマネージャーがいた。
誰なのかは分かっている。
美人の方は涼子という女優だ。
咲耶のやっている役を、本来演じるはずだった人。
「涼子ちゃん! 元気になったんだねぇ。大丈夫? 足はもう」
プロデューサーが話しかけると、笑顔になって、
「ええ、もう全然。演技の方もいけます。でも、代役の方がしっかりやってくれてるという話は聞いてます」
「あぁ、そうなんだよ。咲耶ちゃんね。こっちきて」
呼ばれた咲耶が近づくと、涼子は、
「あ、貴女がそうなのね! まだ演技は見られてないけど、すごい子が出てきたって聞いてるわ。それに、私の代わりを務めてくれて本当にありがとう!」
「いえ、そんな……。私の方こそ、こんな機会を与えていただいて、大変ありがたく思っております」
「あら、ずいぶん丁寧な子なのね……それに身のこなしがすごく綺麗……古武術をやってるっていうのは本当なんだ」
「ご存じなのですか」
「ええ、やっぱり私のせいでこんなことになったから気になって、逐一話は聞いていたから……」
「そうでしたか……」
うーん、ピリピリしたやりとりになるかと思っていたが、この涼子という女優は性格もいいらしい。
本当に屈託のない様子で話している。
真気を見ても嘘はない。
現場について気を揉んでいたというのは事実のようだが……。
しかし、彼女と共に現れたもう一人の方。
その男は、少し様子が違っていた。
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