第274話 方法

 一週間ほどもすると、大抵の施設のチェックは終わり、ほとんどの《しゅ》は取り除かれた、という報告を受けた。

 もちろん、父上、それに美智からだ。

 施設はかなりの数に上ったはずだが、流石に迅速かつ手際がいいな。

 こういう地道な作業をひたすらに毎日こなす気術士がいて、世の平安は守られているのだと改めて感じる。

  

 ただそれでも……。


「……今日の結の調子は、悪いみたいね……咲耶、お願いできるかしら?」


 事務所にスタジオに到着し、結が控え室に入った後、梔子さんがそう頼んできた。


「はい、分かっています」


 咲耶がそう答えると、


「やっぱり、悪いものが見えるの?」


 と梔子さんが尋ねてくる。

 彼女とはこの一週間で、撮影のハードさを共にするうちにかなり打ち解けてしまい、咲耶の出来ることについて、一般人が理解できそうな言い方で結構伝えているからの台詞だった。

 咲耶は少し顔を固くして答える。


「……そうですね。深刻なものではないですが、今日は少し多い気もします。簡単に祓えますので、三十分もすれば気分は上向くでしょう。ご心配なく」


「よかったわ。お願いね……」


 そして咲耶は控え室に向かって歩いて行った。


「どうして結にそんな悪いものが集まるのかしら」


 残されたのは俺と梔子さん。

 だから彼女は俺に尋ねた。

 俺についても、咲耶に近いことが出来る、という認識でいるからこその言葉だ。


「原因は色々あったので、調べて取り除いてはいるのですけど……肝心の、中心といいますか、決定的なものがまだ見つかってなくて。申し訳ないです」


 そう、父上たちの活躍により、大抵の《呪》は取り除かれている。

 しかしそれにもかかわらず、三隅に邪気が集まるのを止められていないのは、呪術の中心点がまだ見つかっていないからだ。

 複数あるのか、一つなのかはまだ何とも言えない。

 地道に探すしかないので仕方がないところではある。

 かなり巧妙に隠されているんだよな……結構な術士がやっているんだろうが。

 一応、手段は一つ残されているが……ちょっと危険なので躊躇するところがある。

 それでも、やらざるを得ないかな、という気分になりつつはあった。


「貴方たちのせいじゃないんだから謝る必要なんてないわ。そもそも貴方たちがいなかったら、今頃、結は大変なことになっていたわけでしょう?」


「命の危険が、とまでは言いませんが、かなりの怪我や病気に侵されていた可能性はありますね」


 もしくは……いや、これは言うべきではないだろう。

 言っても流石に信じないことだろうしな。


「なら、頑張ってくれてありがたいだけだわ。それにしても、咲耶が出演する撮影もそろそろ終わるからね。プロデューサーの気まぐれで二週分出ることになったけど、涼子さんも治ったみたいだし」


「あぁ、あの怪我をした人ですね」


「ええ。もう普通に動けるようになったみたい。だから、次の週からは交代ね」


「となると、やっぱり今週中には結果が必要ですね」


「結果?」


「全ての問題は取り払われた、という結果です」


「……結についての話ね。でも出来るの?」


「やるしかないでしょう。それにいい機会だとも思っているのです。ただ少しばかり危険で迷っていたんですけど……」


「危険って……大丈夫なの?」


「咲耶が三隅さんの近くにいれば大丈夫です。今日中には終わらせましょう」


「何をするのか分からないけど……じゃあ、期待しているわ」


「ええ、少し自由に歩きますが、色々とその辺りは誤魔化しておいてくれますか?」


「……分かったわ。何とかしとく」

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