第272話 結論

「邪気を集める、ですか……。以前の記者からも梔子さんに邪気が流れていたわけですが……やはりあれも?」


 咲耶が考え込んでからそう言った。

 梔子さんと最初に会った時の話だな。

 あの時、遠くから張っていた記者からは、邪気が流れていた。

 あの時はあの記者がアンテナのような役割を担わされている、と思ったし、それ自体は間違っていなかったと思う。

 ただ、目的が単純に梔子さんや三隅だと考えていたのは間違いだったのはないか、という気が今はしていた。

 

「おそらくはな。梔子さんか、三隅……いや、この場合は三隅の方だろうが、そこに邪気を集約させて何かをやろうとしているのだろう」


「邪気の集約、それに基づく術の発動……? 儀式系ですか。これは厄介ですね……というより、私たちだけでどうにかするのは……」


 儀式系は色々な供物や素材を使い、また儀式を執り行うことで、通常の気術には出来ないような現象を起こさせようとする気術の一種だ。

 以前、というか小さな頃にやった《気置きの儀》もまた、一種の儀式系気術になるが、あれは小規模なもので、大規模なものになるとそれこそ街一つを巻き込んでということもありうる。

 歴史を遡れば国一つ、なんてものもあったらしい。流石に現代においてそんなことは難しい気がするが……。

 ともあれ、これを防ぐためには、規模が大きくなればなるほど、単純な力量よりも、大勢の気術士の投入が必要になってくる。

 儀式系は最終的に中心点から発動させるものが多いが、そうではなく複数の地点を起点に発動させるものもある。

 そうなると、一つの場所を潰しても他の場所からの発動により、一つの地点での失敗を補ってしまうこともありうる。

 儀式系は規模が大きくなれば、不完全な発動でもとんでもない効果を出すことも出来るので、確実に防ぐ必要があるだろう。

 まぁ力任せに潰すことだって出来なくはないだろうが、その場合はそれこそ街一つ潰すという結果もついてきたりしてしまうので、最後の手段にしか使えない。

 だからとりあえずは……。


「そうだな。これについては、美智様や重蔵様を頼った方がいいだろう。首謀者を見つけられればそれが一番なんだが、今の今まで尻尾を出す気配はないからな……あのスタジオにも特に怪しいやつはいなかったと思うし……咲耶から見てどうだった?」


「私から見ても特には。皆、ただ良い作品にしようという意識しか感じられませんでした。もしかしたら演技をしているということもありうるかもしれませんが……気術士邪術士の類は、あの中には確実にいなかったと断言できます」


「だよな……」


 演技してるかどうか、はどれだけ人を見抜く力を持っていようと、わからないことはある。

 俺たちには真気を見ることによって嘘や動揺を見抜くことはできるが、本人が本当に信じきって話していることについては、嘘だと断定することはできない。

 つまり完全に洗脳されてとか、勘違いしまくっているとか、そういう時には真気による嘘発見機は機能しにくいわけだ。

 まぁそういう場合は最悪、無理やり記憶を覗くとかそういう方法もありうるが、流石に一般人に唐突にやるには非人道的な行為だからな。

 それに数が多すぎるから全員になんてわけにもいかない。

 やるにしても最低限の人数に絞る必要があるだろう。

 人手もいる……ということで。


「やっぱり俺たちの手には余るな。当初頼まれたのは三隅のことだったから、それ以外については美智様に上げて、俺たちは俺たちがすべきことだけして丸投げしよう」


 そういう結論になった。

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