第270話 帰路

「……二人とも凄かったね! あんなに自由自在に動けるなんて……!!」


 帰りの車の中でそう言ったのは、三隅結だった。

 今日の撮影は結局、その後スムーズに進み、何の事故も無くつつがなく終了を迎えた。

 ただし、まだまだ高校生姿の葉切のシーンは続く、ということなので今日だけで終わりというわけにはいかなそうだったが。

 俺の方は雑魚妖怪として良い感じに倒されて終わったが、また来いと言われてしまった。

 まぁ、咲耶と三隅にくっついていくのは決定だから、どちらにしろ変わらないかもしれないが。

 スタントの人に気に入られてしまったのだよな。

 高校卒業したらうちに来ないかとか……。

 まぁそれはいいか。


「さっき連絡が入ったけど、涼子さん……本来、葉切を演じてる俳優も、大した怪我では無いそうよ。話が繋がり次第、咲耶は交代になるわね」


 梔子さんが運転しながらそう言う。


「いえ、それについては最初から分かっていたことですから、問題ないです。むしろ、珍しい経験をさせて貰って良かったです」


 咲耶がそう言ったが、三隅は、


「えーっ! 最後まで咲耶と一緒にやりたかったなぁ。でも涼子さんの葉切も素敵だけど……あっ、この後、一緒にご飯食べない? それから……」


 と、そんな感じで事務所に戻るまで楽しそうだった。

 その後、咲耶は本当に三隅に連れられて、どこかに夕食を食べに行った。

 流石に所属タレント二人だけでというのも問題だからと梔子さんも一緒についていった。

 俺はと言えば、一応誘われたが遠慮させて貰った。

 マネジャーが一緒とは言え、売り出し中の女優と一緒に若い男がいてはまずかろう、という理由をつけてのことで、確かにねと納得された。

 俺はそのまま帰宅しようかと思ったが、


 ──ブゥーン。


 と、スマホが振動して見てみると、メッセージアプリに咲耶から、


『三隅さんとの食事が終わり次第、今日のことについて相談をしませんか?』


 と送られてくる。

 俺はそれに、


「……えーと、『じゃあ駅前の……で待ってる』」


 と待ち合わせ場所を記載して送り返した。

 彼女たちも駅前近くで食事するようなので、終わり次第、十分くらいで合流できるだろう。

 それまでは俺も何か食ってるか……と考えたところで、そういえば夜に高校生二人と言うのも問題か?という気がした。

 まさか補導されるかな……。

 大丈夫だとは思うが、もしもの時は淡月でも呼び出して保護者ぶってもらうかな。

 式鬼は呼ぼうと思えば一瞬でこの場に呼び出せるので、こういう時は便利である。

 淡月は見た目的には二十代半ばの優男にしか見えないので、保護者と言って通じるだろう。

 父親、ではないだろうが、兄とか親戚とかその辺でな。

 ついでに思考誘導系の妖術も得意なので、警察がやってきても問題ない。

 俺も出来ないわけじゃ無いが、ああいうのは加減とかが職人技で、慣れた者がやった方が確実に良いからな。

 流石に俺も、警察官の頭をぱっぱらぱーにしたいとは思わない。

 

 それから適当に食事を食べ、時間を潰して約束の場所、時間に目印のところで待っていると、


「あ、武尊さま。お待たせしてしまいましたか?」


 と咲耶が弾んだ声で話しかけてくる。

 周囲の目線が彼女と俺に飛ぶが、気にせずに、


「いや、大して待っていないぞ。早速行くか……適当な店でいいか?」


 どこかカフェとかに入ろうかということで、これに咲耶は頷いて、


「ええ、全然。では参りましょう」


 そう言ったのだった。

 

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