第262話 国の気術士
「知っていますが、それがどうかしましたか?」
邪術士の動きの活発化は、ここ数年、気術士の間で話題に出ない日がないほどの話だ。
ここ百年で最も邪術士が跋扈している時代、と言っても過言ではないほどだという。
確かに、俺の前世においてもそこまで邪術士の動きは活発ではなかった。
どちらかというと、地下に潜りながら小さい悪事をやっている奴ら、というイメージが強いな。
表社会に露見しかねないような大それたことは、自らの身を守るためにもやらないという保身重視の活動の仕方だったのだ。
けれど最近は違う。
「一般のニュースとかでもやってるけど、関東国立博物館の爆破襲撃事件や、各地の墳墓の破壊、九州での大規模な崖崩れによって出てきた遺跡の出現とか、そういったものの犯人が邪術士なのは想像出来るわよね」
美智が言及したのが、まさにその例だろうな。
これには咲耶が言う。
「博物館などには、古い時代の気術士が残した、現代では複製不可能な術具の類が多数収められていますから、それを狙ってのことでしょうか。しかしそういう施設には、封印関係が強力に施され、またそれを保守する腕利きの気術士たちもいるはずなのに……」
「その通りよ。そしてそんな腕利きたちを凌駕する力の持ち主が、そういった襲撃に当たっているようでね……。まぁそういった施設にいる気術士は珍しい国家所属の者たちが大半だから、詳しい情報が入ってこないのだけど、ある程度聞くだけでも想像がつくことでもあるわ。いずれ四大家にも協力要請が来ることでしょう」
「協力要請とは……?」
「国は全国一斉での邪術士殲滅作戦を立てているらしいわ。それにはどうしても各地の土着の気術士組織の協力が必要になる。だからよ。そもそも国家所属の気術士は、個々人の能力はさほどでもないから。専門の養成期間もあるけれど、横並びで育てるから飛び抜けた才能は生まれにくい。まぁ、最近、特別に養成する機関も出来たとは聞くけど、よほど徹底して情報を遮断してるのか、これについてはあまり話は聞かないわね」
基本的に、いわゆる民間に存在するのが大半な気術士ではあるが、国家が妖魔などそういったものが存在していることを知っていて、自分たちで何も対策をしないというのはありえない。
そのため、国家に所属する気術士、というのもそれなりにいる。
そもそも、平安まで遡れば今、民間にいる気術士の家だとて、国家機関に所属していたのだ。
陰陽寮とかな。
だが、科学とオカルトの断絶が近代に入って行われ、その結果、気術士家の多くは民間に降った。
それでも国家は秘密裏に一部の気術士を抱え続けているわけだが、その実力の評価は美智が言ったように渋い。
まぁ俺たちと違って積極的に妖魔狩りを、というよりは要人をオカルト的なものから守護するという役割が強いからな。
そのため、施設の防衛とかにはむしろ、かなりの実力を持つと言われているが、俺はあまり接触したことないのでなんとも言えないところである。
「その協力要請ですが、俺たちは……?」
何か関係あるだろうか、と言う意味で尋ねる。
なんだかんだ俺も咲耶もまだ未成年だからな。
大人の気術士たちの何やかんやにはそこまで関わっていない。
唯一、婆娑羅会での活動は別だが、あそこはそもそも存在自体が本来異端なところがある。
美智は言う。
「まだなんとも言えないところだけど、遠回しに若い気術士の実力とかについて探りを入れられているのよ。だから何かある、とは思うの。その時のために、とりあえず話を通してるだけなのだけど……そこまでの心配はいらないとは思うわ。あなたたちなら尚更に」
「そうですか……分かりました。では、そのように」
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