第260話 雇われ
「……それで? どうしてあんな言い方をしたんですか?」
三隅結との顔合わせを終え、彼女が部屋を出ていった後、俺たちと梔子さんが残された。
そこで俺は尋ねる。
すると梔子さんは申し訳なさそうな表情で答えた。
「……結はね、こう……オカルト的なこと全般を嫌っているのよ。だから、もし私がしてもらったようなことで、元気になれるかも、みたいな話をしたら、多分拒否される。そう思ってね」
なるほど、そういうことはあるだろう。
そもそも気術士の存在、妖魔、それに霊獣など、現代科学によって存在が証明できていないものは、世の中の表には出てきていない。
だから、大半の人間はそれを知らずにいるし、それっぽい出来事に遭遇しても、トリックだ、とか胡散臭い、とか信じるに値しない、とか思うのがむしろ普通だ。
三隅もその口なのだろう、と。
「確かに占いとかは好きではない、みたいなことをおっしゃってましたね。けれど普通に嫌っているというより、むしろ憎んでいるに近いような感じでしたが……」
色々と三隅と会話した咲耶がそう言った。
三隅にまとわりついていた邪気、それをとりあえず祓うために、しばらく近くにいる必要があったためだ。
「それは……どこまで話していいものか……」
梔子さんは悩んだ様子になったので、やはり何かあるのだろう。
まぁ別に、事情を全て知らなければならないという訳でもない。
これは咲耶も同じで、
「あぁ、話しにくいことでしたら、特に聞かなくても問題はないです。ですけど……どうもこの件は簡単に片付きそうではありませんから、どうしたものか……」
別のことでそう悩み出したので、梔子さんは尋ねる。
「どういうこと? 私にしたように、結の何かを払ってくれたんじゃないの? すっかり調子良さそうな様子で戻って行ったし……珍しく明日の撮影は朝から行くって言ってたし……」
「一応、彼女の周りに漂っていた邪気を祓ったことは事実です。ですけど……際限なく送られてくるものですから、数日放っておけば元通りになりますね、あの感じですと」
そうですよね、と俺の方を見つめる咲耶。
だよなぁ、と視線で答える俺。
梔子さんはそんなやりとりには気づかず、しかし顔を青くして言う。
「そ、そんな……じゃあ一体どうすれば……」
そんな彼女に、俺は言う。
「まぁ、ちょうどいいんじゃないですか?」
「え?」
「梔子さんは、俺たちを女優希望とバイトのマネージャー見習いとして紹介したじゃないですか。今日この場で顔合わせさせるための苦し紛れの説明だったかもしれないですけど、その設定を貫くなら、しばらく彼女の周りをうろちょろしていても文句は出ないでしょう?」
「え、あぁ……確かに言われてみればそうね。でも、いいの? 流石に貴方たちをずっと拘束して置くつもりはなかったわよ。学校とかあるでしょう? 今日だけ、のつもりでの言い訳だったし」
「その辺りについては、うちの学校は割と自由になる方なので……なぁ、咲耶」
「ええ、私の祖母が高校の理事長なもので、言えばなんとかなります」
「……見た目通り、本当にお嬢様だったってわけ? すごいわね……本物っているんだ……」
関係ないところで驚く梔子さん。
そんな彼女にさらに俺は言った。
「で、どうしますか? 俺たちは問題ないです。後は梔子さんがどれくらい上手くやってくれるかによりますが……」
「その前に、貴方たちはその……邪気?というのをどうにかできる自信があるの?」
これには咲耶が答えた。
「流石にあれだけ多方向からやってくるものを一発で全て遮断しろと言われると難しいですが、コツコツやっていけばなんとかできますよ」
「そうなのね……じゃあ、お願いするわ。もちろん、その間はうちの所属として扱うから、些少だけどお給料も出せるから」
「では、よろしくお願いします」
そういうことになったのだった。
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