第257話 とりあえずの監視

「……よし、じゃあもういいよ。聞きたいことは聞けたし」


 俺がそう言うと、記者の佐藤はパッと表情を明るくして、


「そ、そうか? じゃあこれで……」


 と行こうとしたが、その背中に咲耶が式神を飛ばす。

 人形を模した紙だな。

 それは背中にくっついた後、すうっ、と消えていく。

 あれで普通の人間ならばまず、認識することは出来なくなる。

 仮に認識したとして、剥がせるかと言われるとそんなこともない。

 

「結局、あの邪気はどこから来ているのでしょうね?」


 遠ざかる佐藤を油断なく見つめながら、咲耶がそう呟いた。


「さぁな。あいつはあくまでも中継点にされてるだけなんだ。他のところの誰か、なんだろうが……梔子さんの調子が悪かったのも、あの邪気が変な流れ方して梔子さんの方に流れてしまってたからだろうしな」


「早めに片付けた方が良さそうですが……」


「今日家に戻った後、連絡を入れておくよ。梔子さんが紹介する気だったのは、おそらくその三隅という女優なんだろうしな」


「注目を集めているから、邪気が流れているというところでしょうか。自然なものなのか、人工的な者なのかが問題ですが……」


「わざわざあんな記者が中継店になってるんだから、そこの部分は人工的な匂いはするかな……断言はしかねるが」


「では、私はしばらくあの方の監視でもしていましょう。家に帰った後も暇ですし、式神伝いなら自室にいても出来ますしね」


「あぁ、頼む。でも良かったのか? 俺がやるつもりだったんだが」


「武尊様には今日、楽しませていただきましたから。これ以上負担をかけるのも申し訳なくて」


「負担なんてそんな。俺も楽しかったよ」


「だったら良かったのですが……」


「また、時間を取って出かけような。なかなかお互いに長く時間を取るのは難しいかもしれないが……せっかくの許嫁なんだし」


 そう言うと、咲耶は少し目を見開く。


「どうしたんだ?」


 俺が尋ねると、咲耶は言った。


「いえ……武尊様は……その、この許嫁にはそもそも乗り気ではなかったのではないかと思っていたので、その台詞が意外で……嬉しいのですけど……」


「あぁ……なるほど。まぁ、最初のうちは確かに、あくまでも方便としてのつもりではあったよ。咲耶だって成長すれば、そのうち自ら解消を求めて来るだろうなとも思ってたくらいだし」


「私から解消することはあり得ませんよ?」


 間髪入れずに帰ってきたその言葉に俺は少し苦笑してから言う。


「そうみたいだな……ま、そうだとしたら、俺だって真面目に向き合おうかって気になってきてるんだよ。これだけ長く一緒にいたわけだし、俺もそれなりに……その、な?」


「その?」


「……まぁ、今では憎からず思っているところもなきにしもあらずというか……いや。そろそろ日も落ちる。あまり遅くなると美智様も怒るだろう? 荷物もあるしな……さぁ、帰ろうか、咲耶」


「……もう、武尊様」


 少し頬を膨らませる咲耶だったが、今の俺にはこんなもんが限界な気がするな。

 別に急ぐ必要はないだろう。

 少しずつ進めばいい。

 それに、俺にはやらなければならないことがある。

 それが終わるまでは……はっきりしたことは何も約束が出来ない。

 責任が取れないからだ。

 

「頑張らなきゃならない理由が、増えていくな……」


 いっそ、復讐など諦めれば、とも思うも、それは出来ない。

 それは今までの俺への裏切りだからだ。

 それに、気術士界のことを考えると、余計に今辞めてはいけないような状況になってきているように思うし。

 いずれ全て片付いたら……その時に考えようか。

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