第256話 質問

「まず俺は……記者だ。佐藤英治さとうえいじという」


 男はそう名乗った。


「記者? なんで記者が……って、あぁ、そういえば梔子さんは芸能事務所の人だったか。でもあの人スカウトする人だろ? 芸能界の詳しいことは知らないがそういうのってマネージャーとかそういう感じの立場の人がするんじゃないのか? そんなの記者が追いかけたってどうする」


 記者が追いかけるならやっぱり芸能人本人じゃないのか、という真っ当な疑問だった。

 これに佐藤は答える。


「確かにそう……というか、俺はゴシップ専門の記者だからな。普段は確かに裏方よりも本人を追いかけてるよ」


「じゃあなんで今回に限って」


「それより、お前ってテレビ見ないのか?


「え? まぁほとんど見ないな。朝、ニュースが流れてるのは見なくはないが」


 父上が公共放送を好んで見てるから、それくらいか。

 他は特に見ない。

 母上は割と見るけど、食事してる時とかはテレビ見ない家庭なのだ、うちは。

 だから結果として、俺がテレビを見ることは殆どない。


「だからその感じなのか……」


 呆れたようにため息をつく佐藤に、俺は、


「どういうことだよ。説明してくれ」


 と頼む。

 すると佐藤は言った。


「まずあの梔子って奴は、普段はマネージャー業務をしてる。国民的若手女優の三隅みすみゆいのな」


 ……誰だ。

 全く知らない……。

 なんとも言えず俺が黙っていると、咲耶が、


「流石にそれくらいは私も聞いたことがありますね。武尊様、ほら、さっき見るのを検討した恋愛映画の主演ですよ。ポスターに大きく載ってたでしょう」


 と助け舟を入れてきた。


「あぁ! あれか……ということは梔子さんは本当に大きな事務所の人なんだな」


 別に疑ってたわけじゃないが、あそこまでデカデカとやってる映画の主演女優を出すくらいなのだから、しっかりした事務所なのだろう、と確認できた。

 まぁそれはどうでもいいか。


「本当にしらねぇんだな……」


「いいから続けてくれ」


「あぁ……で、その三隅なんだが、ここのところ表舞台に出てなくてな」


「またどうして?」


「少し前に休養を発表したからだ。期間がどのくらいになるかも分からずじまいでな。理由を俺たちみたいな記者は死ぬ気で探っているのさ」


「それでテレビを見てないのかって言ってたわけか……」


 それこそ芸能ニュースとかではそれなりに報道されてることなのだろうな。

 だけど……。


「それでマネージャーを追いかけるって普通のやり方なのか?」


「正攻法だと、マネージャーよりも本人のマンションの前とかで張り込むのが普通だな。ただ、そっちにはまた別の記者が行ってるから、俺はマネージャー追いかけることにしたんだ」


「人海戦術で頑張ってるのか。マスコミも大変なんだな……」


「まぁな……可能なら転職したい……いや、それはいいんだ。で、ただそれだけなんだが、聞きたいことはこれ以上あるか?」


「ん? あぁ……そうそう、そういうことならなんで俺たちの方を尾行することにしたんだよ」


「それは、そっちの姉ちゃんがあのマネージャーと長く話し込んでる様子だったからな。その後お前の方も来て……一体何を話してるのか気になった。どこかのタイミングで声をかけて、その内容を聞き出そうとしてたんだが」


「……それだけか?」


「あぁ、それだけだが……おかしいか?」


「いや、記者としては真っ当だな……尊敬できる仕事かと言われると微妙だが」


「それは俺だって分かってるが……元は社会部だったんだよ。それを人事異動で……生きてくためには仕方がねぇんだ。で、他には何かあるか?」


「そうだなぁ……咲耶、大丈夫そうか?」


「そうですね。見る限り、この人から流れてる・・・・のは微弱です。おそらくは中継地点に使われているのでしょう。しばらく追いかければ発信元も分かりますが……」


「うーん……」

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