第254話 感想

「……さっきの映画ですけど、なぜあの悪役は最後の最後で計画の全てを説明してしまったのでしょう? あれでは達成できる目的も達成できません。実際、それを口にしたことで主人公たちに防ぐヒントを与えてしまっていましたし……」


 カフェで食事をとりながら、先ほど見た映画の感想を話している。

 何を見るか事前に決めておらず、咲耶が見たいものを、という話になった。

 選択肢は全米が釘付けだったらしいハリウッド映画に、見終わったら必ず涙するらしい恋愛映画、それにあまりパッとしない邦画に、誰もが知っているアニメの劇場版、だったのだが、咲耶が選んだのは予想通り、ハリウッド映画だった。

 女の子だから、というわけではないが、一応、


「恋愛映画じゃなくてもいいのか?」


 と尋ねてみたが、咲耶は、


「恋愛に全く興味がないとか、そういうことはないのですけど……好きならさっさと告白すればいいし、欲しい人がいるのであればあらゆる手を使ってでも手に入れればいいと思ってしまうので……ウジウジ悩んでいるタイプの映画は少し苦手なのです」


 と言われてしまった。

 まぁ確かに咲耶にはそれが可能なだけの力と美貌があるのでそう言えてしまうのだろうな。

 そもそもが、割とさっぱりしているというか、見た目の嫋やかな感じに反して直情的な部分を持っている彼女だ。

 一般的な恋愛ドラマや映画というのは、やはりイマイチ没頭できないのかも知れなかった。

 ハリウッド映画は楽しそうに見ていたな。

 攻撃や破壊の規模が大きいので、色々と気術士的に参考にもなるのだ。

 街中で戦うことは滅多にないが、あそこであの規模の破壊をしてしまうと、確かにこうなるな、みたいなことを思ったりする。

 ……普通の見方ではないか。

 咲耶はどちらかというとストーリーの方を楽しんでいたが。

 悪役の考えとかに言及しているのはまさにそれだな。

 俺たちも悪役というか、まさに敵としてハリウッド映画の悪役みたいなのと対峙することは日常茶飯事なので、ある意味参考になるのもある。

 流石に世界を破滅に導こうとするとかいうレベルのにはそうそう遭遇しないまでも、組織を乗っ取ったり、何かを改造したりとか、そういうのは結構いるからな。

 

「現実でもそうだけど、やっぱりもう少しで目的を達せる、と思うと口が軽くなってしまうんじゃないか? そういうやつ、現実にも結構いただろ」


「邪術士だと小物にそういった者が多いイメージがありますが……映画と違って大した目的でもないですからね。あれほどまでに壮大な目的を達成しかけておいて、行動がいくらなんでも小物すぎ、と思ってしまって」


「途中まではそれなりだったけどな……追い詰められると人は本性が出る、と考えれば納得がいくところがあるぞ。それに、自分の勝ちを確信しているとどうしてもな……」


 事実、俺を確実に殺せると分かった段階になって調子に乗りまくって色々話し出した人間には覚えがあるからな。

 あんなもんじゃないのかな、人間って。

 俺の言葉に咲耶はなるほどと頷きながら言う。


「そういうものですか……私なら結果が出るまで何もかも秘密にしておくのですが」


「もし仮に咲耶がああいう悪役の位置に立っていたら、そうしそうだよな。そして恐ろしい敵になるだろう。だから勘弁してほしいところだ……」


 咲耶は直情的ではあるものの、計画を練れないとか忍耐力がないとかそういうわけではない。

 むしろ決めたら何年でも粘れるタイプだろう。

 そしてそういう人間は、敵に回すと怖い。

 だからこその言葉だったが、これに咲耶は、


「まさか。私は悪になどなりませんよ。私の居場所は、常に武尊様の隣ですので」


 笑ってそう言ったのだった。

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