第253話 ファッション
「……い、如何でしょう?」
そんな台詞と共にフィッティングルームのカーテンが開く。
その姿を見て俺はなるほど、と思った。
フェミニンな花柄のスカートにモノクロの落ち着いたトップス。
いわゆるコンサバコーデと言うやつか?
咲耶がこういうものを着ているのはあまり見ないから新鮮だな。
だから素直に言う。
「似合ってるな。華やかだが、落ち着いている感じがして良い。普段より大人っぽく見えるのも評価が高い」
「お兄さんいいこと言いますね! まったくその通りです!」
俺に続いてヨイショするような言葉を吐いたのは、ショップの店員だ。
ただし、全てがお世辞と言うわけでもなさそうで、目がキラキラ輝いている。
咲耶は、
「そうでしょうか………? 少しばかり明るすぎるような気もします。私のような暗い女には似合わないのでは……褒めていただけるのは嬉しいのですけど」
鏡で見ながらそんなことを言った。
「暗いか? 全然そんなことないが……」
「たまにクラスの外から覗いてる人々がそんなことを言っているもので。そうですか……なら良かったのですが」
これに店員が、
「あー……そういうのはやっかみだから気にしない方がいいですよ。多分あれでしょう? 『確かに可愛いけどなんか暗そう』とか『うーん、表情薄くない? 暗い気がする』みたいなこと言われたんでしょう?」
と言ったので、咲耶は目を見開き、
「なぜお分かりに……?」
と尋ねた。
店員は苦笑して言う。
「女の世界っていうのはそんなものですからね。あぁ、私も暗いって思ってるわけじゃないですよ。お姉さんみたいな美少女は……そういう感じの言われやすいかなって。普通に評価するとケチのつけようがないから、内面で無理矢理言うしかないなんですよね」
「そういうものですか……正直な評価かと思っていたのですけど、割り引いて聞かなければなりませんね」
「そうですそうです。というか聞かなくて大丈夫! 可愛いから! ってことで次はこれを試着してはいかがですか? その次はこれ! その次はこれ! ほら、お兄さんも見たいでしょう!?」
「ええと……」
あまりの剣幕に俺は引き気味になるが店員の目は本気だ。
まぁ……咲耶を着せ替え人形にするのは楽しいか?
気持ちはわからないでもない。
俺も見てて楽しいところはあるので、
「……そうですね。ガンガン行きましょう」
そう言うと、咲耶は若干困惑気味に、
「た、武尊様……」
そう言ったのだった。
そこから次々に着替えてもらい、いずれも似合っていて、
「……どれを買いましょう……?」
と咲耶が悩み始めた。
なので俺は、
「いいよ、全部俺が贈るから」
「え! そんな……悪いです」
「大丈夫だって。おいくらですか?」
まさか店員も全部購入するとは思ってなかったようで驚いた表情をしていたが、ブラックカードを出すと普通に対応してくれる。
どこかのボンボンだと思われたかな。
ただ、俺にしろ咲耶にしろ、自らの腕で普通に稼いでいる。
気術士は末端でもかなり稼ぎが良く、そして俺たちは立場的に中堅になりつつあるからな。
その割に使い所もせいぜいが気術用の素材くらいだし、そしてその素材について俺はかなりの部分自作できるから貯まってしょうがないところがある。
だからと言って無駄遣いするつもりもないが、事実さっきのファッションショーで見せてもらったものは全て似合っていたから……。
「……すみません。こんなに……」
申し訳なさそうな表情をする咲耶に俺は言う。
「次の機会に、この服を着てくる咲耶を想像すると楽しくなってくるから、いいんだよ」
すると咲耶は微笑んで、
「……はい、ありがとうございます」
そう言ったのだった。
ちなみに、紙袋を提げて歩くのは流石に面倒なので、人通りのないところに一旦引っ込み、全てを《虚空庫》につっこんだ。
気術は日常生活にも斯様に役立つのだ。
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