第249話 人集り
「……それで結局、全採用、か……俺の甲斐性のなさよ……」
待ち合わせ場所まで歩きながら、俺はそう一人呟く。
全採用、と言っても本当に全てを採用することにしたのではなく、繁華街で出来そうなことは一通りやることにした、と言うだけだ。
流石にスポーツ観戦は俺も咲耶もあまり興味がないので除外だけども。
なぜスポーツに興味がないかといえば、人類を遥かに超越した動きをしている相手を、同じくらいの速度や腕力で持って叩き潰すのが俺たちの職業だからだ。
あまり、感動がないのである。
じゃあハリウッド映画とかは?
となってくるが、あそこまでなると俺たちにとっても新鮮になってくるのでまた別なのだった。
だから映画は採用することにした。
何を見るかは決めかねているが……チケット取れるかな?
まぁ、休日といってもゴールデンウィークとか特別な休みじゃないので大丈夫だろう、多分。
そして、待ち合わせ場所が見えてくる。
待ち合わせ場所は、俺たちが住んでいる真富田市の駅前だ。
関東でもそこそこ発達してる街なので遊ぶところにはまず困らない。
ちなみに冷静に評価するとさほど発展する要素のなさそうなこの都市が結構な規模なのは、言うまでもなく四大家が本拠地を置いているからだった。
そこここにある看板を見れば、四大家の傘下や関連企業のものばかりなくらいだ。
他の土地だと、流石にもう少し隠しているが、ここならどうとでもできるからと言わんばかりの自己主張具合だ。
事実、どうにでもなっているのでこれなのだろうけど。
駅前にはデッキがあり、そこに特徴的な像が設置されている。
刀を持った侍がデフォルメされたような妙なマスコットの銅像だが、他にいい目印がないのでよくここが待ち合わせ場所に使われている。
さて、真気を探るに、すでに咲耶は到着しているようだ。
これでも十五分前に到着しているのだが、もっと前に来てしまっていたらしい。
待たせて申し訳なくなってきたが……どこだ?
肉眼で目視できないので少し見てみると、銅像の周りに少しばかり、人集りのようになっているところがあった。
どうもそこから真気が……不思議に思って近づいてみると、人の隙間から咲耶の姿が見えた。
「……どいていただけますか。私はこれから大事な用事があるのです」
そんな声も聞こえてくる。
それに対して、
「私も大事な用事よ……お願い、名刺だけでも受け取って。あとで少しだけ話をさせてほしいの。悪い話じゃないから」
と、大人の女性らしき声で咲耶に何か言っているのが聞こえた。
名刺?
別にナンパされているわけではなさそうなので、少し安心するが……。
まぁ、いい。
とにかく着いたことを告げなければ。
「咲耶ー!」
人集りの外から、手を振ってそう軽く声をかけると、
「武尊さま!!」
咲耶が明るい声でそう言いながら、人集りを抜けてきた。
かなり隙間がなかったはずだが、しっかりと見につけている武術的技術によって、ほとんど抵抗なくするりと通ってしまう。
人の意識の間隙を縫う技法で、東雲の奥義の一つであるため、一般人にはまず見抜けず、当然咲耶に注目してたらしい人々も一瞬彼女の存在を見失って、えっ、という顔をしていた。
「悪いな、待たせたっぽくて。これでも早めに出たんだけど」
「いいえ、全然待ってないです。私が早く来すぎたのがよくなかったので……さ、参りましょう」
俺と咲耶がそう会話して、そのまま歩き出そうとする。
しかし、そうそううまくはいかなかった。
「ちょちょちょ、ちょっと待ってー!!」
と、俺たちに、というか咲耶がこっちにいることに気づいたらしい女性が、そう言って止めてきた。
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