第248話 デート、相談

 しかし考えてみれば年頃の女性と二人きりで出かける、なんて経験は前世ではまずしなかったな。

 そもそも俺自身、十五才というちょうどそのくらいの時期に入るかな、という年齢で死んでしまっているからな。

 加えて、気術士として少しでも役に立ちたいと、そればかりに必死で他のことはほとんど何も目に入っていなかった気がする。

 だから……。


「……どこに行ったものかな」


 そういう悩みが、おのずと生じてしまう訳だ。

 待ち合わせ場所も含めて後で伝えると言ってしまっている手前、さっさと決めなければならないのだが……。

 考え込んでいると、


「……何を珍しく独り言言っておるんじゃ?」


 と澪から言われる。


「珍しいか?」


「普段は考えるとき、無言じゃろう。で、気づいたら動き出しておる。その素早さについていくのは割と周囲からすれば大変じゃと思うぞ」


「そんなに生き急いでいるつもりはないんだがなぁ……」


 復讐を!と考えて頑張っているつもりはあるが、気術士の寿命は長い。

 特に南雲慎司と西園寺景子については殺しても死ぬような気配が無いくらいには、寿命が尽きそうに無い二人だ。

 慎司は化け物ジジイみたいになってしまっているし、景子は見た目だけなら二十代である。

 死ぬとしても、普通の死に方はしないだろう。

 いや、俺がさせるつもりはないが。

 死ぬときは俺のこの手で、である。

 ただ、そういう妙な信頼があるからか、俺はそこまで復讐を急いではいなかった。

 そもそも俺が死んだときの状況について謎がいくつか出てきているので、その辺りも明らかにしたいというのもある。

 直近では南雲家について、妖魔改造という禁忌を犯している疑いも出てきているしな。

 どうせなら家ごと滅ぼした方がすっきりしそうだし、そういうのも全て白日の下にさらしていきたい。

 その為には準備と調査と証拠探しが大事だ。

 急いで出来ることでは無かった。

 そんなことを考える俺に、澪は言う。


「そんなに毎日忙しそうにしているというのに、生き急いでない、は嘘じゃな」


「嘘のつもりは……」


「じゃったら、無自覚じゃ。たまには休め。わしと遊んでくれてもいいぞ」


「お前と何して遊ぶんだよ……」


「仙人修行とか?」


「修行じゃないか……」


「おっと、そうじゃった。まぁそれはいい。今何を悩んでいるかじゃった」


「あぁ、それなんだが……明日、咲耶と遊びに出かけるんだけど、どこ行ったものかと思ってさ」


 すると澪は目を見開いて、


「ほう! デートか!」


 と言ってくる。

 龍にもそういう概念があるらしい。


「デート……まぁ確かにデートなのか。婚約者との外出だしな」


「自覚しておらなんだか……」


「幼なじみと出かける、みたいな意識が強かっただけで、少しくらいは意識してるぞ。好意に気づいてないなんてこともない。じゃなきゃ龍輝も誘っているしな」


「そうか……ならいんじゃが。というかデートなのであれば、大体行く場所は決まっておらんか?」


「そうか?」


 どこだよ。例を挙げろ。

 そう思ってみると、龍は答えた。


「映画じゃろ、ショッピングじゃろ、食事じゃろ……まぁ今の季節ならピクニックでもいいし、相手の趣味次第ではスポーツ観戦とかでもいいと思うが、咲耶の趣味ではないか」


 おおぉ……澪が、澪の方が俺よりもずっと現代のデート事情に詳しい……。


「お前、なんでそんなことに通じてるんだよ……」


「わしの最近のバイブルは少女漫画じゃからな」


「……漫画か」


「馬鹿にしたものではないぞ。大体似たようなことが書いてあるということは、鉄板じゃということじゃろ。たまにとんでもないのもあるが、そういうのは外れ値として除外すると、そういう感じになる」


「まぁ、一理あるか……俺が無い頭絞るよりは正しそうだ。参考にさせて貰おう」


「うむ、そうするといい」

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