第247話 励まし

 昏石先輩への報告が終わり、雑談をしていると、


「……おい、武尊!!」


 と慌てた様子の龍輝が生徒会室に駆け込んでくる。

 俺のクラスはホームルームがすぐに終わったが、龍輝のクラスは長引いたらしいな。

 気術系生徒は一般生徒が帰った後にさらに連絡事項がある場合があるから、遅れがちなのだ。

 何も無いときは普通に帰れるけどな。

 今日の俺がまさにそうだったわけで。

 ってそんなことはどうでもいいか。


「どうしたんだ、龍輝。そんなに慌てて」


 俺がそう尋ねると、龍輝が俺の顔を見つけるとすぐに寄ってきて、


「いやそれが……なんというか、ほら。頑張れ」


「え?」


 気の毒そうな目でそう言われて、ぽん、と方を叩かれる。

 直後、何かどんよりとした気配を生徒会室の外から感じた。

 それは俺だけで無く、昏石先輩と龍輝もだったようで、入り口の扉を三人で見つめた。

 すると……。


「……お疲れ様です……」


 と、地の底から響くような声で、咲耶が入ってきた。

 ……頑張れってこれのことか、と察する。

 しかし理由が分からない。

 咲耶がここまで落ち込んでる理由は一体何だ……?

 そう思っていると、咲耶が俺を見つけると同時に、目をカッ、と見開く。

 そして近づいてきて……。


「……武尊さま」


「な、なんだ?」


「……先日、赤いスポーツカーに乗ってどこかに向かわれてましたが、運転していた女性は……誰ですか?」


 非常に冷静に尋ねられた。

 そして、理解する。

 そういえば説明していなかったなぁ、と。

 俺は慌てて、


「あぁ、いや。あれは……そう、色々あったんだ」


「……色々とは?」


「……いや、この前、昏石先輩からとある依頼を受けてな。それで、警察の人と協力しないとならなくて……現場まで連れてって貰ったんだよ。咲耶が見た女性は、警察官の紅宮さんだな」


「警察……? 何か親密な女性というわけでは……?」


「ないない。そもそも結構年上だと思うぞ。しかも警察だ。高校生とどうこうなんてあるわけないだろ」


 おそらくアラサーくらいだと思われた。

 そこそこの地位にいるわけだし、あの年齢でということを考えるとエリートだろう。

 それでもそのくらいの年齢にならないと流石に課長代理にはなれないはずだ。

 俺の言葉に咲耶はあからさまにほっとすると同時に、はっと何かに気づいたように言う。


「それなら良かったですが……警察で無ければどうこうの可能性があるように聞こえるような……?」


「いや、それは勘違いだ。言い方が悪かった」


「そうですか。では今後お会いになることは、無い?」


「それは……」


「あるのですか……」


「色々あって、少し気術を教えることになったんだよ。霊能力者だったからさ」


「なるほど……まぁ特に霊能力者に教えることを禁じられてるわけではないですが」


「だろう? それだけさ。だからあんまり気にしないでくれ」


「分かりました。納得しましょう。私はてっきり……」


「てっきり何だよ……大体恋愛とか俺にはなぁ……」


 目的を達するまでは、少なくともそんな気分にはなれない。

 大体、許嫁の咲耶がいるんだし……。

 許嫁らしいことなどほとんどしていないが。

 それで不安になったのか?

 たまにはそういうことがあってもいいかもしれないな……。

 ふとそう思った俺は、


「咲耶」


「……はい? 何でしょうか?」


「明日、出かけないか? 二人で」


「えっ!?」


「駄目か。じゃあやめて……」


「行きます!」


「ん?」


「二人でお出かけをするのでしょう? しましょう。確定です。楽しみにしています」


「お、おう……」

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