第246話 報告
「じゃあ行ってくる」
次の日、そう言って玄関を出ると、
「行ってらっしゃいませ〜」
「お気をつけて」
という二つの声が聞こえた。
見れば、庭で洗濯物を干している光枝さんと、その隣で同じことをしている淡月がそこにいた。
二人とも割烹着姿で、妙に馴染んでいる。
美男美女でともすればカップルに見えなくもないはずなのだが、どちらかというと雰囲気は家事をするお母さん二人に近いので妙な感じだ……。
淡月は完全に我が家に馴染んだな。
昨日今日で光枝さんとも仲が良いのは、彼が美男だから……ということは全くなく、彼の能力が家事に極めて役立つからだ。
《妖魔の庭》経由でワープみたいなことが出来るので、広い我が家の移動に便利だし、洗濯物をあっちからこっちへ運ぶ、みたいなことも簡単に出来る。
従えている下級妖魔も小間使いの如く働かせることが出来るし、実際、うちには兎がせっせと色んなものを運んでいる。
流石にカエルやヘビにそれをさせるのはあまり見た目がよろしくないので、彼らは庭仕事が任されていた。
ヘビは害虫退治に、カエルは小型のものが家庭菜園で畑仕事をしている。
うーん、淡月には役に立ってもらおうと思って式鬼にしたわけだが、役に立つ、の方向がずれているような気が……。
まぁいいか。
本来の目的の方については帰ってきてから色々相談することにして、俺はとりあえず学校に向かった。
******
「……もう解決しただって?」
授業が終わり、放課後、生徒会室に来る。
すると昏石先輩が一人でいたので、俺は早速と彼に依頼されたことの解決を告げると、目を見開いてそんなことを言われる。
「ええ、そうですけど……何かおかしいですか?」
「おかしいだろ。俺は調査を頼んでいたんであって、解決までは求めてなかったんだぞ?」
そうだったか?
確かに言われてみればそうだったような気もする。
だが……。
「調査だけしても仕方ないじゃないですか」
「いや、そうなんだが……今回の事件はそれなりの妖魔が関わっている様子だったから、ある程度、調査がまとまった時点で上に……大人の気術士に解決を頼むつもりだったんだよ。普段はそうしているからな」
「あぁ、なるほど……」
考えてみれば、淡月クラスの中級妖魔相手に、生徒がまともにやりあえるわけもないか。
なんだか普段、咲耶や龍輝とばかり一緒にいるから、行けそうな感覚がしてしまうんだよな。
これを他の人間に求め始めると危険なので、意識を改めなければ、と思う。
「……まぁ、別に解決したっていうならそれでいいんだが。こんなにさっくり片づいったってことは、大したことない案件だったのか?」
そう言われたので、俺は今回の顛末について説明する。
その際、色々と問題ある部分については端折った。
特に、四大家からあのカプセルを仕入れている、みたいな部分はな。
学生が知ってもいいことがない話だからだ。
場合によっては知っているだけでも消しにくる可能性まであるからな。
それくらい問題のあることなのだ。
また、淡月を従えた部分については、あくまでも倒したということにした。
この辺りの口裏合わせは紅宮さんと淳君にも頼んである。
二人は、中級妖魔を従えたという話をしても誰も信じないだろうから、その方が楽だと言ってくれた。
まぁ、バラされてもまさにその通り、誰も信じない可能性の方が高いので、問題はないといえばないのだが。
全てを聞いた昏石先輩は、最後にため息をついて、
「……かなり大事じゃないか。お前、高校で学ぶことあるのか?」
と呆れたように言ったのだった。
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