第245話 紹介
淡月についてだが、澪に紹介するのはもちろんのこと、俺に近しい人々には全員紹介する必要があるだろう。
特に、まずは俺の拠点となっている我が家、高森家の家族にはしっかりと紹介しなければならない。
そのため、その日の夕食のついでに父と母に紹介することとした。
「高森のお館様、それに奥方様。桂花族の淡月、と申します。今後、武尊様の式鬼として、お世話になりますので、どうぞお見知りおきくださいませ」
流麗な仕草でそう挨拶する、銀髪紫眼の美男に二人が目を見開いたのも当然だ。
いきなり《妖魔の庭》から出てきて貰ったところだしな。
淡月の《妖魔の庭》の座標は先ほどしっかりとこの高森の家近くに持ってこられたらしく、高森家のどこにでもふらりと現れることが可能だという。
ただ、俺の許可があれば、の話だが。
俺がここで地脈と繋がった影響か、本来なら妖魔を遮る結界に拒絶されてこのようなことは無理らしいのだが、出来るようになっていることに気づいたという。
まぁ、そもそも今の淡月は妖魔というより精霊寄りの存在になってしまっている。
それもあるだろうな。
「……ご丁寧な挨拶痛み入る。私は高森家の家長、高森圭吾という。こっちは……」
「薫子です。突然現れるのですもの。少しだけ驚いたわ」
二人とも驚いたは驚いたみたいだが、現役の気術士らしくすぐにそんな感情は引っ込めて適応し、そう言った。
これに淡月は、
「申し訳なく存じます。身も知らぬ者が屋敷のどこかから現れてもご不快かと思いまして……」
「まぁ……確かに驚きはするか。いや、唐突に現れるのも中々だぞ」
圭吾がそう言う。
「それで……淡月さんは武尊の式鬼ということだけど……いつの間に?」
母上が俺の方を見て尋ねたので、俺が答える。
「今日だよ。学校の方から調査依頼を受けたことは話したと思うのだけど、その際に色々とあって……」
「あぁ、その件か……それでどういう関係で?」
父上がなるほどと頷いたので俺は続ける。
「有り体に言えば、事件の犯人がこの淡月でした」
「……何?」
そこで目が鋭くなったので、俺は慌てて言う。
「いや、危険はないんだよ。やったことも大したことではなくて、多少真気を吸ったくらいなもので……」
間違って死ぬほど吸っていたが、そこは端折る。
「しかしな、武尊。人を襲う妖魔は……」
「もうしないように言い含めてある……というか、契約しているから、逆らったら消滅するよ」
「ううむ……そうか。それならば……」
なんだかんだ父上も母上も俺に甘いので、こうやってちゃんと説明すれば押し切れるのだった。
そこからは淡月を受け入れる方向で話が進み、そして淡月の出自というか、世間話の方に会話が進む。
「淡月さんは中国の方から来た妖魔だと聞いたけど、あまり遭遇した記憶が無いのよね。日本にもそれなりの数がいるのかしら?」
これは母上の質問だ。
「そうですね。かなり少数になりますが、いることにはいます。ですが、ほとんどが山奥にひっそりと暮らし、数ヶ月に一度、人の真気を僅かに貰うような生活をしている者しかおりませんので、気術士に遭遇することはほとんどないのです」
「なるほどね……でも山奥なんかで人の真気を吸えるの?」
「古くから、土着の神のように振る舞って、真気を貰う代わりに山の整備などをしていたりなどしているものですから、人との関係も悪くなく……」
そんな生活してるのか、ならまず気術士とは会わないか。
修行するために山ごもりするような気術士もたまにいるが、人に危害を加えないことが明らかな妖魔は放置しがちだしな。
それよりも差し迫った危険がある存在を倒しに行くものだ。
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