第244話 歓迎
生徒会への報告だが、明日にすることにしてとりあえず一旦家に帰る。
紅宮さんの車で俺も淳君も送って貰って、かなりの楽が出来た。
淡月も一緒に車に乗ることになったので、なんだが妙な感じがしたが。
「……妖魔を車に乗せるなんてあんまり無い経験だぜ……」
と紅宮さんが少し笑っていた。
たまに魑魅魍魎の類を特殊なケージに入れて運ぶことはあるらしく、絶対にない、というわけではないらしい。
ただ下級妖魔以上になってくると霊能力者では抑えきれないのでまずないという。
先に車から降りたのは淳君だった。
「色々と迷惑をかけて済まなかったね。そして君は僕の命の恩人で……気術士としての器も広げて貰ったから、その意味でも恩人だ。どう返していけば良いのかわからないな……」
そんなことを言う淳君に、俺は言う。
「あんまり気にすることは無いぞ。ただ、何か協力を求めることとかあるかもしれないから、そういうときよろしく頼む」
「それくらいならお安いご用だよ」
「後は……まぁ気が向いたらでいいんだが、生徒会入らないか?」
「え?」
「先輩方がいつも人手不足で嘆いてるんだよ……今の淳君なら学内の揉め事なら簡単に収められるくらいの力はあるだろうし、不安があるなら俺も色々教えられるからさ」
「……いいのかい? 気術士の技術はそうそう他家に教えては……」
「俺の技術は家の、というわけじゃないものが多いからな。そういうのから教えるよ」
「じゃあ、ありがたく……後日生徒会に行けば良いかな?」
「あぁ、俺の方からも伝えておくよ。ちゃんとした後輩は先輩方も喜ぶだろうしな」
「ちゃんとした……? まぁいいか。分かった。それじゃあまた今度ね」
「あぁ」
首をしきりに傾げていた淳君だったが、ちゃんとしてない後輩は主に俺たち三人組を指している。
生徒会史上、あんな揉め方をして生徒会に入ることになった生徒はまずいないだろうからな……。
今では特にわだかまりも無くやっているのだけど。
気術士全体に漂う、どこか脳筋な性質がそうさせてくれたように思う。
「……よし、ついたぞ、武尊」
車が高森家の前に止まる。
「ありがとうございます、紅宮さん」
「いや、それはこっちの台詞だよ。また何かあったらよろしく頼む。後、色々教えてくれる件もな」
「それは勿論。学生の身分なんてそんなに頻繁にってわけにもいきませんが」
「それくらいは分かってるよ。お礼と言っちゃなんだが、足が必要な時とかは呼んでくれ。喜んで使われてやるから」
「ありがたい話です。じゃあ、また」
「おう」
そして車は軽快に走り出して消えていった。
紅宮さんはこれから夜中までに報告書を仕上げないとならないらしく、少しだけ遠い目をしていたが。
公務員は辛いな……。
「ま、俺には関係ない話か……ただいまー!」
そんなことをつぶやきながら、家の扉を開き、そう声をかけると、
「……帰ってきたか。それで? そっちの奴は一体何者じゃ?」
と、澪が即座に出てきて構える。
そうは言っても、真剣にというより、朝にテレビでよく見るヒーローのようなポーズで、本気には見えないが。
彼女には淡月の力の程も見えるからだろう。
その気になれば何とでも出来る、と確信しているのだな。
「おぉ、貴方が澪様ですね。お初にお目にかかります。私は淡月。桂花族の一人にして、武尊様の式鬼です。澪様のお話は、武尊様からも聞きました。高位の龍であられると……式鬼の先輩としても、非常に有能な方であるとも聞きました。ぜひご指導ご鞭撻の程、よろしくお願いしたいと思っております」
淡月が丁寧にそう言うと、澪はまんざらでも無い様子で、
「ほ、ほう? それはそれは……うむ。いいじゃろう。後輩としての礼儀もなっておるようじゃ。入るが良い!」」
そう言って中に案内し出す。
なんて単純な……と思うと同時に、澪なりの歓迎だったのかもしれないな、とも感じた俺だった。
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