第241話 契約

「それで? そこから仕入れたのに、なぜ南雲系列からだと?」


 俺が最も気になる部分について尋ねると、桂花族の男は軽く答える。


「《伽藍の輩》の人間が言っていたからだね。最近、南雲の分家に注文しても中々、機器が納入されなくて困ったものだ、と」


「それはまた……」


 情報統制が不用心というか。

 いや、妖魔相手だから気にする必要はないと思ってるのか?

 実際、気術士側にはまず、漏れてこないしな。

 妖魔は意外にも契約関係については厳しい。

 というか、どちらかというと物質的というより精神的な方に力が依っている存在であるから、はっきりと契約したことに反すると、場合によっては力が大きく減衰したりすることがある。

 そのため、ちゃんと契約すれば守る。守らざるを得ないのだ。

 もちろん、例外とかはいくらでもあるんだけどな。

 それでも中級妖魔くらいまでなら、確実に守るだろう。

 それ以上になると微妙だ。


「私も複数台注文してたのに遅れてて文句を言った時のことだったから、よく覚えてるんだよ。まぁ結局それから数日して納入されたわけだが。結構高くて困ったね」


「……高いって、そういや何で払ってるんだ? 現金とか持ってるのか?」


「持ってないことはないよ。でも、流石にそんな大金持ちというわけではないのでね……。これらを買った時は、現物を収める形になった」


「何の?」


「妖魔さ。私の眷属たち……」


「あぁ、《三ツ目兎》とかか。まぁそこそこ珍しい妖魔だし、手に入れられる機会があれば、欲しいやつは欲しいか……」


「そうそう。うまく躾けてやればペットにも出来るからね」


「……そんなことする奴いるのか」


「邪術士では結構いるらしいよ? 普通の気術士は……」


「流石にないな。いや、でも聖獣を従えている者は稀にいるから、似たようなものではあるか」


「聖獣とまで呼ばれるような妖魔とは流石に比べ物にならない格の妖魔なんだけどね。やってることは同じかも」


「そうだな……まぁそれはいい。というか聞きたいことは聞けたな。南雲系列が妖魔改造カプセルを作ってる……だが分家と言ったな? 本家は?」


「そこは正直分からない。私も取引先の邪術士が漏らした話を聞いただけだから。詳しく聞けば話してくれる、かもしれないけど……」


「うーん……出来ればやってみてほしいが……」


「そこで私は殺されたくないんだが……」


「殺されるのか?」


「妙なことに探りを入れて来る者を、邪術士が処分しないと思うかい?」


「……それは確かにな……じゃあ、こうするのはどうだ。お前が次回、取引をするときに俺も密かについていく。お前はさっき言ったようなことについて探りを入れ、危なくなったら俺が助ける」


 いわゆる潜入調査みたいなものだ。

 潜入するのはこの桂花族の男で、俺は後ろからついてくだけだが。

 

「また無茶を言うね……それを聞いて私にどんな得が……」


「さっきの真気を継続的にやるのじゃ足りないのか?」


「お、本当かい? それなら……だが、その後、邪術士に追いかけられたら私も危険なのだけど」


「……仕方ない奴だな。じゃあ俺の近くに来ればいい。なんなら後で契約でもするか?」


「どんな契約かな?」


「俺には妖魔を直接従える技法がある。これを使えば、お前は俺に逆らえなくなるが、同時に、俺にとってお前はかけがえのない仲間となる。つまり、共に戦う戦友となるものだ」


 もちろん、これは式鬼術のことだ。

 あれは高位の存在とも結べるものだが、そうではない下級妖魔相手にも問題なく使える。

 まぁ、こいつが下級妖魔かと言えば違うが。

 特殊な存在なんだよな……。


「ほう……そんな手法が。しかし、私もあまり自由を制限されるのは……」


「俺はそんなことはしない。人殺しをするなとか、その程度だ。まぁ一緒に戦ってほしい時は呼ぶがな」


「本当かい?」


「まぁそこは信じてもらうしかない」


「うーん……まぁ話は分かった。じゃあ、信じてみようかな」


「自分で言っておいてなんだが、いいのか?」


「よく考えてみれば、君は私が従わない場合は地の果てまで追って来るんだろう? 考えるだけ無駄な気がしてね……」


「それは半ば冗談だったんだがな。まぁ、いい。じゃあ契約を結ぼうか」


「あぁ、よろしく頼むよ」

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