第240話 仕入れ先
「知らないだって? それはまた……意外な話だね」
本当に驚いたように目を見開きつつ、そう呟いた男に、俺は尋ねる。
「なぜだ?」
「さっき言っただろう。これは有名な話なんだ。我々妖魔の間では……」
「じゃあお前以外に聞いても知っている?」
「うーん、その辺の下級妖魔を捕まえても難しいだろうとは思うけどね。奴らに大した知能はないし、そんな相手を取引相手には選ばないだろう。あくまでも、そういった相手として適切な妖魔の間では、というだけだね」
「それを改めて探すのは……面倒くさそうだな」
目の前の桂花族の男とて、そうそう出会える存在ではない。
ある程度以上の知能がある妖魔というのは、必然、身を隠すのもうまい。
人間の間に紛れ込んで生活している場合も多数ある。
そして、本当に一切人間に被害を及ぼさなければ、見つかる原因もまずないということになる。
もちろん、一定距離まで近づいて妖気を感じ取ることで判明することもあるが、雑踏の中でちらりと感じるくらいでは難しいのだ。
「そうそう。だから私から聞いた方が早いよ。報酬だって君からすれば安いものなのだろう?」
「さっきくらいの真気でいいのならな……本当にあんなものでいいのか? もっとやってもいいが……」
「いやいや、私が言うのもなんだが、あれ以上を妖魔に与えてはいけないよ。それこそ格が上がってしまうからね」
「あの程度で? でもまぁ……心当たりはないでもないか……」
淳君に真気を注いでその器を拡張してしまっているからな。
さっきこの男に渡した真気はそこまでではないとはいえ、それでもあの半分くらいはあった。
下級妖魔などに渡せば格の上昇くらいはありうるのか。
妖魔に率先して真気を注ぐなんてことは気術士にはまずありえない行為のため、データも特にないんだよな。
しかし、改造妖魔の研究をしているような家ならまた別なのだろうが。
目の前の男の知見も、そういう流れで得られたものかもしれない。
「まぁ、そういうことなら俺はそれで構わない。しかしちゃんと情報は教えろよ。それと、人を襲うのも控えめにな」
「もちろんだとも……ええと、で、妖魔改造カプセルの仕入れ先なんだが……」
妖魔改造カプセル。
そんな名前なのか、あの設備は。
でもまぁ、用途からしてそのままだし分かりやすくはあるか。
「あぁ、どこから仕入れた」
「四大家の一つ、南雲家系列からだね」
「……やっぱりか。西園寺は関係ないのか?」
「少なくとも私は聞いたことがないが……厳密に言うと、私が直接仕入れたのは邪術士からになる」
「ん? どういうことだ?」
「私が仕入れた邪術士集団……《
「あぁ、比較的有名なところだな」
四大家でも常に追っていて、見つけ次第潰しにかかっているところだ。
それでもイタチごっこになってしまっているというか、潰れる気配がない。
そして、彼らのアジトには確かにたまに妖魔改造カプセルを始めとする、禁術系の施設群が残されていることがあった。
邪術士は多かれ少なかれ、皆、禁術に手を出しているものだから、特に注目はしていなかったのだが……。
「そうなのかい? 比較的妖魔と仲良くしてくれる集団でね。色々な妖魔と関係が深いんだよ」
邪術士にも実は色々いて、妖魔は絶対に絶滅させるべし、なんていうタイプも実際にはいる。
逆に妖魔との共存共生を掲げてたりとか。
それこそ、そういうのはどうでもよくてただただ禁術に手を出したいがために邪術士の道を選んでるとか、本当に様々なのだ。
《伽藍の輩》はその辺り、柔軟な団体なのだろうな。
何だかんだ、気術士が出自だから妖魔には割と憎しみを向けやすいんだよな、たとえ邪術士であっても。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます