第239話 交換条件
「……うまい? それならよかったが……にしても本当に食うんだな」
てっきり《食べる》、というのは比喩的表現であって、あくまでも吸収する感じになると思っていた。
しかしこの様子だと本当に食べているようだった。
男は言う。
「最高の味だよ! まるで肥沃な大地によって育てられた葡萄を何年も熟成させたワインのような芳醇さ! 濃厚な甘味は綺麗に霜降りの入った牛肉のようだ……!!」
「……随分と俗物的というか、成金のような味の表現だ」
「見た目が人間なのでね。普通の食事も出来るし、するよ。それだけでは徐々に存在が萎んでいって消滅してしまうわけだが……」
「なるほど。どうしても真気が必要なわけだ」
妖魔は基本的に人間のようなわかりやすい寿命をもたない。
それでも消滅することはあるが、その理由は年月が経つごとに妖気がすり減ってそのまま存在の消滅を迎えるからだ。
ただし、強大な妖魔になってくると、むしろ年月が経つごとに妖気が増し、手がつけられないような状態になることもある。
どうやって妖気を増やすかはその妖魔によって異なるが、桂花族の場合は、人から真気を吸収するのが主なのだろう。
吸収というか、食べて、が正確なようだが。
他の妖魔だと、人間そのものを食べて、それによって真気などを吸収する感じになるな。
真気だけに限って選別的に食事を出来る種族というのは、やはり珍しく異質だ。
人間で例えると、食べ物からカロリーとかそのものだけを吸収するみたいな性質ということになるからな。
「ううむ、それにしてもこんな真気を私に与えて良かったのかね?」
「なぜだ?」
「なぜって……私は君から離れられなくなってしまうじゃないか」
「なんだ、ストーカー宣言か?」
「なってもいいならなるが?」
「迷いなしか……いや、やめてくれ。というか、そもそも俺の頼みは聞いてくれるのか?」
「あぁ、人の真気を死ぬほどまでには吸わない、ね。それはしないというかしてないから、はっきりと言ってなかったか。うん、全然構わない。これから先、人が死ぬようなレベルで真気を吸収することは、
「私は?」
妙に強調して言うから気になってしまった。
これに男は言う。
「同族がやったとしても私のせいにされてはたまったものではないからね。私は、と言ってる」
「まぁ、それくらいは流石にわかってるぞ」
「ならいいんだが。たまにいるんだよね。聞いたこともない妖魔のやったことを妖魔全体の責任にして来るのが」
「あぁ……それは困るよな」
人間で言えば、日本の犯罪者がやったことだからと全ての日本人に責任を求めるみたいな話だもんな。
あくまでも悪いのはそいつであって、日本人全員ではない、みたいなことだ。
「そういうことだね。ところで……」
「なんだ?」
「どうだろう。たまに君の真気をくれないか?」
「……美味かったからか?」
「その通りだ」
「しかしそんなことをして俺に何のメリットがある?」
「さっきの約束を私は百パーセント守るよ……」
「もともと守らなかったら地の果てまで追いかけて倒すだけだが?」
「おぉ怖い……じゃあ……あぁ! そうだ、そこの設備関係について話すのはどうかな?」
「あれは改造妖魔を作るために使うものだろう?」
「……知っているのか。では、あれの仕入れ先については? まぁそんなことも君ほど腕の立つ気術士なら知っているか……有名な一族のようだし……」
「知らない」
「え?」
「俺はあれらをどこから仕入れられるのか、知らないな。それはうまい交換条件になるぞ」
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