第236話 施設

「……そろそろこの《妖魔の庭》の中心に近づいてきたはずなんだが……」


 かなり広い《妖魔の庭》なので結構歩く羽目になっているが、普通であればせいぜい、体育館程度の広さなのが普通だ。

 これほどの広さを用意するのは妖気のコストなどを考えてもあまり効率的では無いのだが……。

 まぁ、高位の妖魔だとしたらそんなものを気にする必要ないが。

 そう言う場合、まるで一つの国ほどの広さのこともあったらしいからな。

 たとえば、温羅が《妖魔の庭》を持とうとすれば、それくらいの規模まで可能かもしれない。

 だが、中級妖魔程度では流石にな……。

 ではなぜこんな広さを用意しているかというと……。


「ねぇ、武尊。何か……こういう場所には見慣れないものがあるのが見えるんだけど」


 少し遠くを観察していた淳くんがそう言った。

 彼は《見る》ことに特化した気術家系ということで、視力がいい。

 俺は単純に気を感じることなら淳くんよりもずっと遠くまで見ることが出来るが、淳くんは単純に物理的な視力が良いのだ。

 もちろん、気術で強化しているのだろうが、意外にこういう系統は珍しいな。

 どうしても気術士というのは攻撃力強化の方に行きがちだから。


「見慣れないもの? それって……確かに妙な気を感じるが……」


 そんなことを言いながら、進んでいくと淳くんの言葉の意味が分かる。


「これって、機械だよな? カプセルの中に……生き物が浮いてる?」


 紅宮さんがそう言った。

 彼女の言うとおり、試験管を巨大化したようなカプセルの中に生き物が浮いているのが見えた。

 浮いているのは……。


「……下級妖魔か。さっき出現した《三ッ目兎》に、ヒキガエル……こっちは《羽蛇》もいるな……」


「こうやって数を増やしてるのかな?」


 淳くんはそう尋ねるが、


「いや……妖魔もなんだかんだ言って生き物だ。つまり、普通の生き物と同様の増え方をするのが通常だ。中には少し変わった繁殖方法を採るものもいるが……噛みついて眷属を増やすとかな。それでも、こういう機械頼りで増えるもんじゃない……そもそもただ増やしたいなら、効率も悪いしな」


 単純に数を増やしたいなら、普通の繁殖方法が一番手っ取り早い。

 養殖のようなことは妖魔でも別に可能だ。

 特に妖気や真気を使ってうまく促してやれば、恐ろしい速度で増やすことも出来る。

 だから、このカプセルの類はそういった単純な目的では無いだろう。

 そして俺はこれと同じようなものを、今まで何度も見つけてきた。


「じゃあ何なんだよ?」


 紅宮さんがそう尋ねてきたので、俺は答える。


「これは改造妖魔の研究施設だ。禁じられた研究だよ……しかし、なぜ《妖魔の庭》にそんなものが?」


 今まで見つかってきた改造妖魔、合成妖魔の研究施設はいずれも邪術士関連のものだった。

 中には邪術士とまでは言えない在野の気術士が協力していたり、地方の企業がやっている場合まであった。

 しかし、《妖魔の庭》でこんなものが見つかったことは今までなかった。

 いや……巧妙に隠してきた?

 だとすれば……良くないな。

 あくまでも現実世界に存在する施設を見つけることは気術士にとってはさほど難しいことでは無い。

 しかし、《妖魔の庭》にあるものを見つけるとなると、かなり難しくなってくる。 

 まず存在に気づけない可能性が高いからな。

 今回はたまたま見つかったが……同じようなものがもっと沢山あるのだとすれば……。


 そこまで考えていると、ふと俺は気配を感じ、


「二人とも、俺の後ろに」


 そう指示を出す。

 そして、


「……おや、私の実験場へお客様かな?」


 と、少し離れた位置に唐突に人影が現れた。

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