第235話 回収
「……はぁはぁ」
「つ、疲れた……」
紅宮さんと淳くんが息も絶え絶えの様子で、湖の上につくられた遊歩道の上で膝をついている。
今の戦闘でだいぶ体力気力を消耗したらしいことがそれでわかる。
けれど……。
「二人とも思った以上に頑張ったじゃないか。傷ひとつなく倒し切れるとは思ってなかったぞ」
俺がそう言って褒めると、二人ともこちらを見て言う。
「結構頑張ったからね……それに、器が大きくなっていたことが影響してると思う。いつもと気術の威力が違ったから」
「私の場合は、お前がくれた術具が優秀だったからだよ……なんだよあれ。撃ち込んだら撃ち込んだ部分が炸裂したぞ」
どうやら、俺のお陰だ、と言いたいらしい。
まぁそういう面もあるか。
でも基本的には二人がそれなりにやれる人間でなければ与えたものを活用しきれずに終わっていたはずだしな。
俺としてもいい実験が出来たと言える。
だから……。
「別に全部俺のお陰でわけじゃない。二人とも別に足手纏いでもなかったな」
そう言った。
「ちなみにだけど、武尊が一人で戦ってたらどれくらいで終わってたの?」
淳くんがそう尋ねてきたので、
「うーん、そうだな……お、ちょうどいいのが来たぞ」
一匹、少し離れた位置からこっちに向かってくるヒキガエルの妖魔を発見する。
それに向けて手を掲げ、風の気術を発動する。
不可視の刃が遠くでヒキガエルを粉々に切り刻み、そして動かなくなった。
「こんなもんだろうな」
それを見て、二人とも引き攣った顔で俺を見ていた。
「レベルが違うじゃねぇか」
「やっぱり足手纏いだったね……ごめんね……」
そんなことを言う。
「二人を連れてくる判断をしたのは俺だし、二人を連れてきたからこそ、こうやって魔物が向こうから出てきて襲いかかってきてくれてるんだよ。俺一人だと、多分、近づいてこないからな……」
隠匿術を使っていれば当然の話だし、じゃあ真気を出して歩いていたらどうなるかと言えば、恐れて近づいてこないだろうと言える。
それにここの主にもバレやすくなるだろう。
その点、適度に侮ってもらえそうな戦力というのは役に立つ。
「そういうことなら、しっかりと囮の役目を頑張ろうかな……いい修行になるみたいだし」
「同感だ」
そんなことを言う二人に、俺は、
「あ、ちょっと待ってくれ。その前に素材を回収していいか?」
と尋ねた。
「素材?」
首を傾げる紅宮さん。
「あぁ、なるほど。
淳くんの方はその重要さをよく知っているようだ。
気術士にとって、術具作りはバカにされやすいが、調合の腕は割と評価される。
それは自らの力を上昇させることに活用できるからなのも勿論だが、一般人が妖魔などから受けた影響を取り除くためにそのようなものが必要になることが多いからだ。
気術士として必須の知識、というわけだな。
それでも覚えるべきとされるものは限られていて、やはり専門の気術薬師ほどまでの知識は必要とはされないが、ガマの油の類はよく使われる。
「その通りだ。出来ることなら皮とかも処理して集めたいところだが、そこまでの時間もないしな。肉もうまいはずだから持っていきたいが、今日のところは諦めることにしよう」
「これ、食べれるの……?」
「あぁ、うまいと聞いた覚えが……あぁ、そうか」
そういえば多くの気術士は流石に妖魔の肉は食わないな。
俺が聞いたのは、あの大封印の中にいた時に、温羅からだったのを思い出す。
たまの世間話でそんなことを聞いたのだ。
「悪い、忘れてくれ」
「いいけど……でも食べれそうな気はするよね。蛙って普通の蛙ならアジアでは結構食べるわけだし……」
「機会があったら挑戦してみてもいいだろうな」
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