第234話 試し撃ち
「……次はこれか」
目の前に現れた存在に、俺は思わずそう呟く。
霧が晴れた中を進んでいくと、小さな湖のような場所にたどり着いた。
そこには木製の遊歩道のようなものが作られていて、そこを三人で歩いていると、湖の中からそれは現れたのだ。
「ヒキガエル……? にしては大きすぎねぇか?」
紅宮さんがうめくように言う。
彼女も女性だからか、両生類は苦手なのか眉を顰めていた。
いや、これだけ大きければ男女関係なく苦手か。
実際、淳くんも微妙な表情をしている。
「やっぱこれ……倒さなきゃ先には進めないんだよね」
「まぁな。ちょうどいいし二人ともやってみるか? そんなに強くはないぞ、これ」
「二人なら……まぁ一匹くらいは行けるはずだ。紅宮さんは渡しておいた銃を使えばですけど」
すると二人は、
「……ただの足手纏いもあれだしな。やってみるか」
「僕も経験のためにはありがたいけど……いいかな? ここの主にバレそうで怖いけど」
「その辺は俺が結界を張ってうまく誤魔化しておいてやる……《見えぬ壁よ、来たれ》」
そして音や気配が外側には漏れぬ不可視の壁を張る。
一応、外側から内側を見ても何もいないように見えるものだ。
「危なかったら助けてやるから、存分にな」
そして、その言葉が開始の合図だったかのようにヒキガエルたちが飛びかかってくる。
体高はおよそ成人男性ほどあるし、全体の厚みから見るに、重さは数百キロに及ぶのではないだろうか。
普通にやれば間違いなく押し潰されて終わりの相手になってくるが、二人はすぐに動き出してヒキガエルの突撃を避ける。
足手纏い足手纏いと俺も彼らも言ってはいるが、実際のところ二人の能力はそこまで馬鹿にしたものではない。
紅宮さんは霊能力を使って身体能力を上げられるようだし、だいぶ素早く動けている。
動体視力も上がっているようだし。
最もよくある霊能力だが、それだけに扱いやすさもダントツだ。
警察として活動するにもいいだろうしな。
普通の人間であれば、霊能力によって身体能力を上昇させた霊能力者の相手になることはまずない。
体力測定すれば全ての項目で世界レベルの人間になっているようなものだからな。
ただ、気術士相手になればそんな霊能力者も相手にはならないのだが。
実際、淳くんもそれくらいのことはできる。
学生レベルだからまだまだ練度は高くないが、それでも身についている技術を十全に扱ってひきがえるに対抗していた。
そして、淳くんは自分の家系の気術が《見る》ことに重点をおいたものだ、という話をしていたがまさにそれを今、扱っているようだった。
彼が視線を向けるとヒキガエルの動きが止まったり、また体に切創が急に出現したりするのだ。
いわゆる《眼術》系統だな。
西洋だと《魔眼》とか呼ばれるものだ。
使い勝手はあまりよくないと言われるが、それだけに強力な術が多いことでも知られる。
まぁ、それでも淳くんのそれは出力的にもまだそこまでではないが……。
紅宮さんの方は攻撃の手段として銃を使っている。
俺が渡したものだな。
ここで戦ってもらっているのは、それがどの程度の威力を出せるかの実験も兼ねている。
事前に試してはいるし、このヒキガエル程度が相手なら問題なく対抗できるレベルだと自負しているのだが、どうか。
銃器の扱いには流石になれているようで、うまく立ち回り、そしてヒキガエルの頭部を狙って打ち込む。
すると、銃から真気によって形作られた弾丸が発射され、命中する。
命中と同時に炸裂するようにしておいた為、ヒキガエルの頭部が一部、ボンッ、と吹き飛んだ。
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